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資料には書かれていない部分の気になる箇所をあらかた拾い集めたところで一息つく。
そして、まず作業員の指紋が残っていなかった理由を推測し、作業員と事件の関連性を考えてみることにした。

「もし仮にこの柵に指紋や傷が残ってたとしたら、一昨日の夕方以降についたもの、ってことになるのだな。
それが指紋となれば・・・ペンキが乾いた後。乾く前に触ったのなら、指紋ではなく指の型がとれるからな。」
「ああ、恐らくそうなるな。タミさんの指紋も、ペンキが完全に乾いた後についたものだろな。」
「工事の作業員は誤って指の型をつけたりするヘマはしないだろう。誤って指型をつけたとしても、ちゃんと塗り直す。
それに彼らはペンキを塗るプロだから、塗った後に乾いたかどうかをわざわざ指で触って確認することもない。
作業終了翌日、扉などにつく指紋などはあっても、道具を運び出す際に柵に指紋はつかないだろう。
雨で流れた指紋の中に、業者の指紋があったとはまず考えにくいな。
それと10階と屋上を繋ぐ階段に残っていた指紋はタミさんのものだけ。
そこからも作業員たちの指紋が出なかったってことは、恐らく軍手でもはめていたのだろう。」
「ということは、作業員は関係してないってことか?」
「管理会社に連絡済みってことは、作業員たちもちゃんと施錠してくれてると思うだろうし。
作業員がこの事件に絡んでるという可能性は低いだろうな・・・。」

思いつく可能性をひとつずつ羅列し推測してみたが、事件との関連性という面ではあまりにも繋がりがなさすぎる。
下敷き型のバインダーに挟んだ用紙に書き込んでいた『作業員』という単語を二重線で消した。

「作業員がホシという線は消えたとして、何でタミさんは屋上へ来たのかなぁ?」
「そうだ。そこが問題なんだ。・・・もし、だ。仮に、タミさんが自殺を図るつもりだったとしよう。
鍵が閉まっている可能性が非常に高い屋上を、死に場所に選ぶだろうか。
ホントに自殺するつもりだったら、もっと確実な方法を選ぶんじゃないだろうか。」

もう一度資料を読み返してみる。
あるポイントに差しかかった時、俺の頭にひとつの疑問が湧き上がった。

「そういえば村上さん・・・『何者かが階段を利用する足音を聞いた』という証言があったようですが。」
「最上階である10階の階段に近い部屋の住人だけだけどな。
その時間に留守にしていた住人も多かったし、豪雨の雨音が激しかったことで階段から離れた部屋の住人の耳には届いてなかった。」
「その住人の証言によると、『カッカッカッカッって階段を走る足音をたしかに聞いた』ってことだよ?」

安岡の説明に違和感を覚え、俺は思わずペンを執る手を止めた。

「階段を“走る”音、だと・・・?」
「うん。下りてるのか上ってのかまでは、雨音に交じってたから わからなかったんだって。」


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