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「最後は、ここだな。・・・よっ、と!」

先を歩いていた村上が、屋上へ出る重いドアを押し開けた。
いつの間にか猫担当は安岡に代わっており、安岡の肩に器用に乗っかっている。

「ここもあれこれ調べたが、昨日の大雨で、ほら、きれいさっぱりだ。
手がかりは、階段の手すりに残ったタミさんの指紋・・・
それと給水塔の軒先で雨に濡れなかった箇所の、柵に残ったタミさんの指紋だけだ。」
「ためしに警察犬も連れてきたけど、匂いが雨で流れて見向きもしなかったよ。」

そうだ、昨日は夕方からどしゃ降りの雨だったのだ。
銀行強盗事件の鑑識も雨の中で行われ、それはそれは大変な作業だった。
現場近くを警邏中の捜査員がそのホシ(犯人)を見つけ、そのまま逮捕に至ったのが不幸中の幸いだったが。

安岡が給水塔へ歩み寄り、立ち止まって足元を指差した。

「ここ。ここからタミさんは飛び降りたんじゃないかってことになってる。」
「ここから・・・」

柵にもたれかかるようにして身を乗り出す。
眼下にはマンションの駐車場が小さく見える。

「ここの屋上はいつも開放されてたんですか?」
「いや、それが、ちょうどこのマンションは一昨日の日没まで塗り替え工事をしてたらしくてな。
この屋上の柵を塗るのと階段の手すりを塗るのが工事の最終作業だったらしい。
屋上の扉の鍵は、マンションの管理会社が朝開錠し、塗り替えの業者の作業終了時間に施錠をしてたんだよ。」
「一昨日は塗り替え完了した段階ですでに日が暮れてたんだって。
屋上には明かりがないから、塗り替え工事の業者は仕方なく塗り替えに使った道具を屋上に置いたまま帰ったんだ。
んで、昨日の午前中に道具をすべて引き揚げて、その後マンションの管理会社にその旨を連絡したらしいんだけど・・・
管理会社は業者からの連絡を受けたにもかかわらずここの施錠を忘れていたんだって。」

俺の問いに村上と安岡が猫をあやしながら答えた。

「じゃ、調べますかね。」

屋上を囲う柵だけでなく、屋上へ続く階段や扉など、目を皿のようにしてくまなく見ていく。
少しでも気になるところはカメラで撮影し、時には鑑識道具を使ったりしながら、証拠になりそうなものを集めていく。

「証拠、出そうか?」
「いえ、まだ今の時点では何とも・・・。でも・・・」
「でも?」
「『証拠が少ない現場でも必ず証拠はある』。タミさんがそう教えてくれましたから。」
「・・・そっか。」


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