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「ここが死体発見現場だ。」

ここはタミさんが入居していたマンション。
10階建で築30年ほど経っている。
そこの駐車場でタミさんの死体が発見されたのだ。

現場付近には供えられた花とチョークの跡、わずかに血痕もまだ残っている。

「タミさんは、エレベーターで最上階の10階まで上がり、そこからエレベーター脇にある階段を昇って屋上へ向かったと思われてる。
階段から検出されたタミさんの指紋は、10階から屋上に続く階段の手すり部分だけだったからね。
あ、ほら、屋上に給水塔が見えるでしょ?ちょうどあの手前の柵から飛び降りたっていうことになってる。」

安岡がマンションの屋上を指差し、説明してくれた。
遠くに見える柵をまたぐタミさんの姿が頭に浮かんで、思わず頭(かぶり)を振る。
タミさんがそんなことをするはずがないと信じているのに。

「一応言っておくが、ダイイングメッセージ的なもんもねぇぞ。」
「そうですか・・・」

 

狭いエレベーターに乗り、次にふたりに案内してもらったのはタミさんの住む部屋。
6階の角部屋だ。

白い手袋をつけた安岡がドアを開けると、玄関にあの三毛猫がいた。

「ニャ〜ッ!」
「あ、そうだ、猫のこと忘れてましたね、先輩。」
「そうだったな。こいつも何とかしないと。逃がすか?」
「あっ、ちょっと待ってくださいっ、ソイツは・・・俺が飼います!」
「は?」「え?」

戸惑うふたりを放っておいて、その猫を抱き上げる。

「お〜、よしよし。さみしかったな〜。もう大丈夫だぞ〜?」
「先輩・・・酒井さん、急にキャラ変わったね・・・」
「そっとしといてやれ、安岡。酒井は酒井で、今回の件でショックを受けてんだ。」

何だか誤った捉え方をされているようだったが、昨日の会話を説明するのも面倒なので、訂正せずそのままにしておいた。

「・・・じゃ、中、見ますね。」
「頼んだ。」
「じゃ、コイツを頼みます。」
「え、ちょっ・・・」

鑑識作業を開始するため、胸に抱いていた猫を村上に預けた。

玄関には猫のために買ったのだろうか、200mlの紙パックの牛乳がコンビニの袋に入ったまま置かれていた。
死亡推定時刻の約10分前、このマンションの近くのコンビニで買われたものだ。
購入時のレシートはタミさんのコートのポケットから見つかっており、ちゃんと鑑識課で保管されている。
それにその牛乳の製造日と製造番号からもその日コンビニの店先に置いてあった商品に間違いはない。

「タミさんの奥さんは若くして亡くなられていて、ふたりのお子さんもすでに社会人で家を出てるんです。
お子さんが独立したタイミングで一軒家のマイホームを売って、この部屋に移り住んでひとりで過ごされていたようですよ。」

安岡の説明を聞きながら部屋を見渡す。
目立った家財道具はベッドとタンスとテレビのみ。
そんな生活感のない部屋の片隅に小さな仏壇が置かれている。
そこには奥さんの写真が飾られていて、ホコリもなく、しっかり手入れされている様子が窺えた。

「この部屋も鑑識が洗いざらい調べてくれたが、何も出てねぇ・・・」
「そうですか・・・。だいたい鑑識で調べていそうなところはだいたい見当がつくんで、一応それ以外のとこを調べてみます。」

「一応」ということで調べ始めたが、新しい指紋はタミさんのものしか出なかった。
事件はこの部屋は関係していなさそうだ。


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