「・・・村上さん。」
「何だ?」
「お願いです。その現場、教えてください。俺が今から行って、現場を洗い直します。」
「でもお前っ・・・その事件はもうすぐ自殺で処理されることになってんだぞ?!」
「逆に言うと、それまでは時間があるってワケですよね?俺はその時間にかけます。」
「酒井・・・」
村上はため息をひとつ吐くと、「仕方ない。連れてってやる。」と言って、歩き始めた。
「俺も行きたい!酒井さん、さ、早く行こう!」
「っと、その前に・・・事件の資料を見てみないとな。」
「わかった、じゃあ俺らは今から捜一戻って資料持ってきてやるわ。」
「では俺は課に戻って証拠品を見ておく。」
「じゃ、またあとでな。」
村上と安岡が足早に去るのを見送った後、俺もまた歩き出した。
真実を見つけるために。
ホントはこれから鑑識に戻り、資料整理をするつもりだったのに・・・。
しかし、今はそれどころではない。タイムリミットは刻一刻と迫ってきているのだ。
資料整理はタミさんの事件が片づいてから、残業でも徹夜でもすれば何とかなるだろう。
早速証拠品を引っ張り出してきて、それをひとつひとつじっくりと観察し、デスクの上に並べていく。
「酒井、資料持ってきたぞ。」
「あ、すまない。」
村上から資料を受け取り、目を通しながら証拠品と照らしていく。
「どうする?時間がねぇぞ。」
「OKです、だいたい頭に入りました。」
「安岡が下でクルマを用意してくれてる。行くぞ。」
安岡の運転する車の後部座席に座り、再び捜査一課からの資料に目を通す。
タミさん―――
鑑識に入り立ての時だった。
俺はタミさんが仕切るヤマ(事件)に関わった。
その時、せっかくの証拠品を俺のミスでパーにしてしまったのだ。
「すいません!俺っ・・・!」
「そう慌てなくてもいい。」
「しかしっ・・・!」
「証拠が少ない現場でも必ず証拠はある。このヤマだってそれだけが証拠品ってワケじゃない。
他の証拠品で『こいつが犯人だ』っていう核心に迫れることができればそれで済むんだから。
後悔しているヒマがあったら・・・続きは言わなくともわかるな?」
やさしい表情と声で俺を励ましてくれたタミさん。
しかしその言葉には力強い信念と、事件に対する情熱を感じた。
「っ・・・現場、行ってきます!」
「気をつけてな。」
再び舞い戻った事件現場。
観点を変えてもう一度くまなく鑑識し直し、手堅い証拠を新たに3つも発見することができた。
タミさんがくれた『証拠が少ない現場でも必ず証拠はある』という言葉は、今でも俺の座右の銘になっている。