再び派遣会社から元マジシャンの友人の自宅を聞き出し、そこへ向かった。
インターホンを鳴らすと、しばらくして細くドアが開いた。
「・・・どちらさん?」
警察手帳を見せると、男は「入って。」と言って部屋の奥に入っていった。
北山は部屋の隅々までじっくりと観察しながら男の後をついて歩く。
質素な部屋の様子、地味な風貌が被害者とどことなく似ている。
大きく違うのは、この部屋には作りかけのマジックのグッズが数多く置かれているところだろうか。
「その辺に座ってください。今お茶淹れますんで。」
「お構いなく。直に帰りますので。」
「はぁ。」
「先日、お友達亡くなられましたよね?」
黒沢が切り出した。
「ええ・・・ショックです・・・」
男は小さく唇を噛み締め、拳を握った。
「あ、後はよろしく。」
黒沢は北山に主導権を渡し、一歩下がった。
「・・・・・・。自殺の原因、何かご存知かと思いまして。」
後を継いだ北山が男に質問する。
「あの野郎に・・・マジックをパクったって言われたんだ!だからっ・・・だからあいつは自殺しちゃったんだよ!」
「そのマジックはあなたから買ったものだと聞きました。」
「ヤツが言ったのか?ああ、俺が売ったんだ。俺が作ったんだ。それをパクっただなんて!」
男は声を荒げたまま話を続けた。
「手品っていうのは、ネタは無限にあっても、タネや仕掛けの数は限られているんだ。
だから似たマジックができることは少なくないんですよ。」
「なるほど。」
「それに・・・ヤツが俺達のネタをパクった可能性だってある。ヤツならそれぐらいのことをやりかねない。」
「なぜそう思うのですか?」
「ヤツは昔からずるがしっこい性格だったからね。」
「そうですか。・・・話は変わって、あなたはマジシャンは辞められたのですか?」
「えぇ。3年前にね。俺には裏方の方が向いてるんですよ。」
自嘲気味に男は笑った。
「まだ派遣会社には登録されたままですね。」
「登録をしたままなだけですよ。別にマジシャンを辞めたからといって、すぐ登録解除する必要もないですしね。」
「今はマジックを売る以外に他の仕事されていますか?」
「引っ越し屋で働いてる。タンスとか運んでるよ。」
「わかりました。最後に。」
北山が人差し指を立てた。
「彼が自殺した時間、あなたはどこで何を?」
「ここでひとりでマジック作ってたよ。」
「ここにいたと証明できる人はいますか?」
「見てのとおりひとりで住んでるから・・・それが何か?」
「確認のため、お話を伺ったすべての方に同じ質問をしています。」
「そうですか。」
「ありがとうございました。失礼します。」
ふたりは男に頭を下げて、部屋を後にした。