部署に戻ったふたりは、早速酒井に出力してもらったデータを調べにかかった。
「うわぁ!」
黒沢がかけていた電話を慌てて切った。
「・・・どうしました?」
「電話帳に登録されてない着信履歴の番号にかけたら、ワン切り詐欺だったぁ!どうしよう、高額な請求が来たら・・・」
「黒沢君・・・ここは警視庁ですよ、心配いりません。」
「あ。・・・あはっ、そっか!そうだよね!忘れてた〜。」
「・・・・・・。」
「それはそうと、気になるものありました?」
黒沢はデータに目を通しながら北山に尋ねた。
「事件のあった日の夜、友人と思われるマジシャンから『マジックを盗作するな』というメールが届いています。
その直後、その友人からの着信もあります。」
「盗作?被害者が友人のマジックをパクってどこかで披露したってこと?」
「真意のほどは定かではありませんが、この文面からいくと、恐らくそういうことになりますね。
その友人のメールと通話が、携帯に残る最後のやりとりです。」
「確かめに行きますか?」
「えぇ。行きましょう。」
派遣会社に友人のマジシャンのスケジュールを聞き出し、仕事先へ向かった。
企業の創立記念パーティ会場。
その壇上で華々しくマジックを披露する被害者の友人の姿が目に入った。
巧みなトークで場を盛り上げながら、社長が引いたトランプのカードを見事的中させた。
拍手喝采を浴びながら、彼は舞台を降りていった。
「見事なマジックでした。」
「ありがとうございます。」
笑顔で答えるマジシャン。
ふたりは胸のポケットから警察手帳を取り出した。
マジシャンの顔から笑顔が消える。
「自殺したお友達の件で、お話を伺おうかと思いまして。」
北山がストレートに用件を伝える。
「あいつのことか・・・あいつ、俺のマジックをパクりやがったんだよ・・・あの日、俺が問い詰めたんだ。」
「あの日というと?」
「自殺した日だよ。」
「どこで、ですか?」
「・・・どこだっていいだろ?」
「言えないんですか?」
「は!?まさか俺を疑ってるんじゃないだろうな?」
「私はまだ殺人事件として調べているなんてひとことも言ってませんよ?」
「・・・!?」
「あなたを疑っているわけじゃありません。私たちの仕事は、自殺なら自殺で、その証拠を探さないといけないんです。
正直に話していただけませんか?変なところで嘘をつくとますます不利になりますよ?」
「・・・わかったよ。言うよ。・・・あの日の夜9時過ぎ、あの公園にあいつを呼び出したんだよ。」
「・・・それで?」
「『パクるな』って言ってやりましたよ。
アイツは『このマジックは買ったんだ。だからお前が同じマジックをやってるなんて知らなかった』って・・・」
「マジックを、買う、ですか?」
「あぁ。俺は持ちネタのマジックのほとんどを自分で考えて作ってるけど、中にはマジックを作ってマジシャン達に売るのを生業(なりわい)にしてる人間もいるんだ。」
「彼は誰からそのマジックを買ったのでしょう?」
「あいつの友達の元マジシャンですよ。そいつも派遣会社に登録してますよ。今はあんまり仕事入れてないみたいだけど。」
「わかりました。ありがとうございました。」
北山は被害者の友人に礼を言った。
「あ、最後にもうひとつだけ。」
「・・・何ですか?」
「彼を公園へ呼び出した後、あなたはどうされました?」
「『二度とあのマジックをするな』と言って帰ったよ。その後のことは知らないよ。」
「あなたがその後、家に帰ったと証明できる人はいますか?」
「・・・一人暮らしだからいないよ・・・」
「ありがとうございました。
北山はマジシャンに頭を下げた。
黒沢も慌てて頭を下げる。
「行きましょう、黒沢君。」
「・・・陽一さぁん、今ずっと横にいたけど、俺あんまり出番ないね〜。」
「こういうシーンぐらいは私にも目立たせてください。」