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「で、なんか新しいことわかりました?」
「彼はマジック専門の人材派遣会社に登録していました。」
「へぇ〜。そんなのあるのかぁ。」
「派遣会社から証拠としてこれをもらってきました。」

北山は黒沢に書類を渡した。

「何ですか?これ。」
「彼が登録してからの仕事内容です。」

黒沢は受け取った書類を受け取り、読み上げた。

「○月○日土曜、○○病院。○月△日日曜、老人施設・・・」
「ここの派遣会社ではテレビ出演などの大きい仕事も入ってくるそうなんですが・・・彼の仕事は少し地味です。」
「あ、でも最初の頃はデパートのイベントとか入ってる。」
「正確に言うと『最初の頃、だけ』。」
「・・・あ、ホントだ〜。」
「もうひとつ付け加えると、最初の頃は平日にも仕事を入れていた。」
「・・・あ、ホントだ〜。」
「さらに付け加えると、彼が倉庫会社に勤務した時期と、マジックの仕事が土日に集中するし始める時期がほぼ一致します。」
「・・・あ、ホントだ〜。」
「おそらく手品だけでは食べていけなかったんじゃないかと思います。」
「にゃるへそね〜。」
「黒沢君。少しは自分で推理してくださいね。」

 

 

鑑識課。

ふたりは酒井の元を訪れた。

「いらっしゃいませ。カレーは出ませんが。」
「結構です。」
「鑑識でカレー出たら、俺の商売あがったりだよ。」
「アンタの商売は刑事でしょうにっ!・・・ってそんなことは置いといて、今日は何のご用で?」
「遺留品を見せていただこうかと思いまして・・・」
「少々お待ちください。取ってきますから。」

酒井は部屋の奥へと入って行き、すぐに戻って来た。

「こちらです」
「お〜、ありがとう!」

黒沢が伸ばす手を、酒井が「て〜ぃっ!」と奇声を発しながら叩いた。

「いたっ!何すんだよ〜!」
「手袋してください!アンタこの仕事何年やってるんすかっ!」
「あ、忘れてた。」
「『あ』で済むことじゃないですよっ!」

一方の北山は準備万端、いつの間にか手袋を装着していた。

「え〜っと。ちょっと待ってね〜・・・」
ポケットを探る黒沢。

「これでいいや。」
と言って取り出したのは、牛の顔が描かれた鍋つかみ用のミトン。

「もぅ〜、勘弁してくださいよ〜!」
「いいじゃん、今これしかないんだもん。」
黒沢は意気揚々と片手に装着する。

「まぁカレーが付着してる様子はないし、いいんじゃないですか?」
「警部っ!たまには叱りなさいよ!アンタの部下でしょうが!」
「『のびのび子育て』をモットーにしているので。」
「アンタ落合博満か!」
「じゃあ俺は落合福嗣か!」

黒沢と酒井が猛烈につっこむ中、北山は黙々と遺留品を点検している。

「トランプ1箱。」
北山は遺留品のリストと照らし合わせながら箱を開けた。
カードを取り出し、パラパラと中を見る。

「タネも仕掛けもない、新品のトランプ。」
「なんで新品だってわかるの?」
「トランプの並び、スペードのエースやジョーカーの向きなどを見たらわかります。」
「賢〜い。」

「・・・財布。布。黒。」
「この財布、懐かしいっしょ。このマジックテープがまた哀愁を誘うんだよね〜。」

酒井が手袋を着けた手で持ち上げる。

「よっぽどマジック好きなんだね〜。」
「そんなとこでうまいこと言わなくていいから!」
「・・・中を開けても?」
「構いませんよ。どうぞ。」

酒井は北山に財布を手渡した。

「あ。」
財布を開けると、カード入れの部分からトランプが1枚出てきた。

「ハートのエース。」
「♪ハートのエースを〜、確めて〜ぇぇ〜」
「すいません、それは私が滑らせました〜!」
酒井がテヘッと言いながら、ニカ〜ッとした笑顔を見せた。

「て〜ぃ!」
黒沢が酒井の額をピシャッと叩いた。

「携帯。白。うん。」
北山が手に持つリストを横から確認しながら、黒沢が携帯を持ち上げる。

折り畳み式携帯のサイドボタンを押し、パカッと開く。

「まず着信履歴を見てください。」
「は〜い、陽一さんちょっと待ってね〜・・・・・・すいません、この手じゃボタン押せません・・・」
「アホじゃ・・・」
呆気にとられる酒井。

北山は何も言わず黒沢の手から携帯を取り上げ、操作した。

「着信履歴、発信履歴、電話帳、送受信メール・・・データをいただきましょうか。」
「かしこまりました。」
酒井は高級レストランのギャルソンのように綺麗にお辞儀をして携帯を受け取り、パソコンに接続した。

「はい、これが紙に印刷したものです。こっちはフロッピーにデータ保存しときましたんで。どうぞ。」
「ありがとうございます。」

牛の鍋つかみをパクパクさせる黒沢。
「パペットマペット。」

手袋の指先部分を歯で噛み、ゆっくりと手から手袋を抜き取る北山。
「片平なぎさ。」

「ふたりでボケるな、特命係ぃ!」


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