現場となった公園に着く。
都会のビル街にある比較的大きい公園であるにもかかわらず、昼間から人気も少なく、ひっそりとしている。
「この様子じゃ、夜になると人なんていないんじゃないかな。目撃者もいないだろうな〜。」
黒沢は周りを見渡しながら歩く。
現場となった木の下に立つ。
木の太い枝の根元には、今も生々しくロープの跡が残っている。
「どうやってロープに首をかけたのでしょうね。」
北山が木を見上げる。
「あ。ほんとだ。酒井からの資料には、椅子とか箱とか土台になるような物やそれを置いた形跡はなかったって書いてあった・・・。」
「気になります。次に被害者の周辺を探りに行きましょう。」
「はいっ。」
北山と黒沢は被害者の自宅へ到着した。
2階建てのアパートの、2階の真ん中辺りに被害者の男の部屋はあった。
ひとまず、部屋の中に入る。
部屋の中は必要最小限の物しか置かれていない。
質素な生活をしていたようだった。
そんな部屋の隅にパソコンが置かれていた。
北山がパソコンの電源を入れ、立ち上げる。
ブラウザを開き「お気に入り」のボタンをクリックした。
「うわ・・・手品?マジック?」
お気に入りに追加されていたのは、手品関連のサイトが主であった。
今度は「履歴」のボタンをクリックする。
「あ!これ・・・」
派手なスーツを着て、トランプを広げた被害者の画像が現れた。
「被害者のようですね。どうやら彼はマジシャンだったようですね。」
「・・・トランプマン?」
「・・・ではないでしょう、化粧もしてませんしね。」
「ホントだ、化粧品ないもんね。さすが陽一さん!」
「・・・・・・。」
北山は黙ったまま、ポケットから出したフロッピーに男のパソコンからいろいろなデータを保存した。
次にふたりは被害者の勤務先を訪れた。
彼はちいさな倉庫会社に勤めていた。
職場の評判、勤務態度、共によく、人に恨みを持たれるような人物ではないようだ。
職場の人間にマジックについて尋ねたが、誰ひとりとして知る者はいなかった。
たいした情報を得られないまま、夜を迎えた。
深夜2時。被害者の死亡推定時刻。
公園は昼間訪れた時に予想したとおり、人気は全くない。
「か、帰りたいなぁ・・・」
黒沢は北山の袖元を掴んだまま背後に隠れるようにして歩いた。
現場付近に到着する。
「夜中に人が死んだトコに来なきゃいけないなんて・・・恐いなぁ・・・」
「・・・刑事になってからさんざん死体見てきているのにですか?
エグい死体見た後に平気でキーマカレーとか作って食べてるのにですか?」
「それとこれは話が別だよ!非科学的なものが恐いの!」
北山は、そ〜っと黒沢の肩を突付く。
ビクッと固まる黒沢。
「志村〜、後ろ後ろ〜。」
「う〜わぁ〜〜〜〜!」
黒沢は声高に叫びながら、脱兎のごとく公園から逃げ出していった。
「冗談のつもりだったのに。っていうか志村じゃないのに。」
北山はゆっくりと後を追った。