警視庁内の無機質な廊下を、並んで足早に歩く北山と黒沢。
前から肩で風を切り、威圧感を放ちながら歩いてくる男が見えた。
捜査1課の村上てつや。
その横には、肩で風を切ってはいるが、全く迫力に欠ける男。
同じく捜査1課の安岡優。
捜査1課の凸凹コンビだ。
「うわ、前から嫌なのが来た・・・」
黒沢が目頭に手を当て、首を左右に振る。
「特命係の黒沢ぁ〜!」
村上が遠くから大音響で叫びながらグングン近づいてくる。
「なんだよグラサン!」
「なんだとコラっ!グラサンっつーな!グラサンって!」
村上が黒沢の胸倉を掴む。
「はいはい。なんですか、むーらーかーみーさーん。」
「うわっ、カレーくさっ!また暇つぶしにカレー炊いてたのかよ!」
「ほっといてくれよ!俺はな、カレーとともに幸せを運ぶ『カレーの王子様』なんだよ!」
「馬鹿かオメエ!いっぺん死んで来いコラっ!」
「それにな、今日は暇じゃないんだよ!だからその手をさっさと離せ!」
「どこ行くんだよ?」
「うるさいよ、お前に関係ないだろ!」
「・・・▲▲町の公園です。」
横に突っ立ってた北山が口を挟む。
「何っ?!」
村上が手を離し、北山の方へ向き直した。
「警部殿・・・あれは自殺でカタがついたはずですが?」
睨みを効かせて北山に詰め寄る。
「今回の事件が自殺かどうか確認するために行くだけです。自分の勉強のためです。」
冷静に答える北山。
「相変わらずガラ悪いよなぁ、村上は〜。」
「そうなんだよね。俺も何度も『そのグラサンやめたら〜?』って言ってるんだけどね〜。」
「あ、そうだ、今日のカレー何?」
「チキンとナス。早く行かないと、鑑識’s(カンシキーズ)に全部食われちゃうよ。」
「え、マジ?」
「ってコラそこのチビ2人組〜!何をくっちゃべってんだお前ら!」
北山との緊迫したやりとりそっちのけでトークする黒沢と安岡に、村上が吼える。
「行きましょうか、黒沢君。」
怒る村上に目もくれず、北山が黒沢に声を掛けた。
「あ、は〜い。んじゃあね、安岡。」
ニッコリ笑って手を振る黒沢。
「は〜い、頑張ってねぇ〜。」
満面の笑みで答える安岡。
「くぉらっ!安岡っ!」
村上は安岡にヘッドロックをかました。
「いでででででっ!は・・・離して〜!」
「特命係相手にヘラヘラしてんじゃねぇ!」
「わかった!わかりましたよっ!ギブギブ!」
村上はヘッドロックを解いた。
「あの野郎〜!」
すぐそこにある壁を拳で殴る。
傍らにはグッタリと横たわる安岡の姿があった。