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その翌日。

北山と黒沢は、事件のあった公園にいた。

「俺に話って何ですか?」
背後から声をかけられ、ふたりは振り返った。

そこに来たのは、元マジシャンの男。

「お呼び立てして申し訳ありません。」
「いえ、捜査には協力するつもりなんで別に構わないんですけど・・・」
「もう一度、事件のあった日のことについてお話を聞きたいのです。・・・事件のあった時間、あなたはどこで何を?」

北山は確認のため、前回と同じ質問をした。

「この前も言ったでしょう?あの日は家でひとりで新作のマジックを作ってましたよ。」
「それは、本当ですか?」
「え・・・どうしてそんなことを言うんです?」

戸惑いの表情を浮かべる男に、北山は一歩近づいた。

「あなたがお仕事でお留守にされている間に、あなたの部屋を調べさせてもらいました。
あなたの部屋の玄関に置かれたエナメルの靴から、この公園と同じ成分の土が採取されました。」

「あっ・・・あれはっ・・・あれは、俺が普段から履いている靴だ。あの靴で出かけたり仕事へ行ったりしているんだよ。
あの日もあの靴で・・・」

元マジシャンの男が反論する。

「あなたは引っ越しの仕事にエナメルの靴を履いていくのですか?
家具や電気製品を運んだり、何度も履いたり脱いだりしないといけないのに、あの靴には傷ひとつありませんでしたよ?」

「あ・・・」

「それに・・・あなたがマジックを辞めたのが3年前。そしてあなたがあの部屋に引っ越して1年。
マジックの表舞台から退いたあなたの部屋の玄関に、エナメルの靴がピカピカの状態で置かれていた。これは少々不自然です。
不要な靴なら、靴箱にでも収納しておけばいい。玄関に置く必要は全くないのです。
仮に、引っ越しをした時からそこへ置いたままだとしたら・・・靴はホコリをかぶってしまう。もちろん、靴だけではなく、靴の周辺にもです。
しかし靴とその周辺にはホコリはなかった。つまり、あの靴はあの場所に置かれてあまり時間が経っていない、ということになります。」

「それは・・・掃除したからだよ。一応、昔はあれを履いてメシ食ってたんだ。だから靴は綺麗にしておこうと思って・・・」

「部屋の様子を見せていただきましたが、あなたはマメに掃除をする性格じゃないようですね。
マジックのネタにすらホコリが薄く積もっているのに、靴と靴周辺だけを綺麗にする。これはかなり不自然です。
それに、普段から靴を大切にしているのであれば、靴の裏に土をつけたまま放置などはしません。
あの靴はあなたにとって大切でも何でもなかった・・・つまり・・・あの靴は被害者のものだったのではありませんか?」

黙り込んだ男に、北山はさらに追い打ちをかける。

「前回お話を伺った際、あなたは盗作の疑惑を知っていた。
しかし、盗作したと訴え出たマジシャンが被害者と連絡をとった後、携帯には発信も着信も履歴が残っていません。
自宅でひとり、マジックを作っていたあなたが、何故盗作のことを知ることができたのですか?」

「ホントだ。被害者はマジシャンからの電話の後、電話を使った形跡がないのに、なんで知ってたんだろ・・・?」
黒沢は、北山の推理に首を傾げた。

「こうは考えられませんか?・・・被害者が電話を受けた時点で、彼が被害者の隣にいた・・・」
「あっ・・・そっかぁ!隣にいたらわかるんだ!・・・ということは、あの日ひとりでマジックを作っていたという証言は・・・」
「矛盾が出てきますねぇ。」
「さすが、陽一さんだな〜。」

北山の鋭い読みに、黒沢が感心したように大きく頷いた。

「あの夜は・・・俺の部屋で新作のマジックのネタをあいつに見せてたんだよ。」

ついに男は観念したように静かに語り始めた。
北山と黒沢は黙って男の話に耳を傾けることにした。

「その時、あいつの携帯が鳴ったんだ・・・ヤツからのメールだった。『俺のマジックを盗作するな』という内容だった。
あいつはすぐヤツに電話をかけ直した。そしたら・・・ヤツは盗作したことに対する抗議をあいつに一方的にぶつけてきた。
電話ではラチが明かないってことになって、あいつが練習場所に使っていた公園で待ち合わせすることになったんだ。
あいつは俺からしかマジックのネタを買っていない。ヤツからそんな風に言われたってことは、俺の商売にも関係してくる。
俺があいつに盗作のマジックを売りつけた、ってことになるからな。
だから『俺もついて行く』って言ったんだ。でも、あいつは『ひとりでいい』って言って・・・」

「被害者はあなたの部屋を出たんですね。」

北山は男の話の受けて質問をした。


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