結局、バーテンダーの向かいの席には、ジャンケンに勝利した安岡が座った。
安岡の右側には、
「ちっ、なんだよ・・・勝負の神様ってのは金持ちに弱いもんなんだな。」
「そういう問題かよ〜?!」
ふてくされる村上と、それにつっこむ黒沢。
左側には、黙ったままバーテンダーに熱い視線を送る北山と、バーテンダーに見惚れてコトバを失っている酒井が座っている。
バーテンダーの背後には大きなガラス窓が取りつけられていて、眼下に東京の街の明かりが煌めいているが、誰ひとりそれを見ている者はいない。
「あの、すいません。」
安岡が声をかけると、バーテンダーが顔を上げる。
『マジ、めちゃ美人!』とココロの中で同じコトバを叫ぶ5人。
その興奮を抑えながら、安岡がコトバを続ける。
「このお店のオススメって何ですか?」
「ハイボールですね。」
「ハイボール・・・?」
バーテンダーは、カウンターの上にサントリー角瓶を置いた。
「こちらを、ソーダで割るんです。」
「じゃあ、俺はそれで。」
横から割るようにオーダーしたのは北山。
他の4人も、「俺も」「俺も」と後に続いた。
「お前、禁酒してるんじゃなかったのか?」
「今日は特別だよ。こんなステキなお店(と女性)に巡り合えたんだから。そっちこそ、その日本酒でも飲んでればいいんじゃないの?」
「日本酒はいつでも飲める!今はハイボールが飲みたい気分だったんだ!それはそうと、そっちのアンタ、まだいるのか?さっきまで『帰る帰る』ってしつこく言ってたのに。」
「うるせぇっ、帰る用事がなくなったんだよ!そんなこと言い出したら、黒沢はどうなんだよ?駅前のインド料理屋、行きたがってただろうが。」
「なぁんだよぉ〜!俺はカレーも好きだけど、飲むのも好きだし〜。・・・あれ?専務、今日はシャンパンじゃなくていいんですか?」
「私は『シャンパン』が好きなだけじゃなくて、『うまい酒』が好きなだけですから。」
小声で牽制し合っていると、白く長い指が5人の目の前に順にグラスを置いていった。
「お待たせしました。ハイボールです。」