5人はグラスを高く掲げ、声を上げた。
「(バーテンダーさんとの出会いに)乾杯!!」
そしてグラスに口をつける。
「あ、うまい・・・」
「うん、おいしい。」
「ホントですか?喜んでいただけたようで、うれしいです。ありがとうございます。」
ぺこりと頭を下げるバーテンダーを見て、5人はグラスに口をつけたまま『惚れてまうやろ〜!!』と叫んだ。
「???」
が、バーテンダーには聞き取れなかったらしい。
「見晴らしのいいお店ですね。」
キザな斬り口でバーテンダーに語りかけた北山に、4人が同時に再び牽制の視線を送った。
「空き物件を探している時にここを紹介されて、この眺めを一目で気に入ってしまって。」
「いいなぁ〜。景色はキレイだし、隣に桜の木もあるし、(バーテンダーさん美人だし・・・)」
そう言って、黒沢がため息をつく。
「あ、桜、気づかれました?」
「えぇ。今日はその桜を探しに来たんですよぉ〜。でも柵があって入れなくて・・・」
しょぼんと肩と眉を下げた黒沢を見て、バーテンダーは「あっ、ちょっと待ってくださいね!」と言って、歩き出した。
カウンターから出て、店の入り口のちょうど向かい側にあった壁へと向かったバーテンダーは、そこにかかっていたカーテンをスッと開いた。
「うわぁ・・・」
カーテンの奥には大きめの窓があった。
そのガラスの向こうには、さっき坂道から遠目に見ていたあの桜が、すぐそこに立っていた。
「すごい・・・!」
「これはまた、贅沢な眺めだなぁ・・・」
黒沢と酒井が驚きの声を上げる。
「どうして、こんなキレイな桜、カーテンで隠してるんすか?もったいない・・・」
村上が桜を見つめたままバーテンダーに尋ねる。
「私も桜が大好きで、ついお客さまを忘れて桜に魅入っちゃうもんですから・・・」
恥ずかしそうに はにかんだバーテンダーを見て、5人はココロの中で『萌え〜!!』と本日3回目の雄叫びを上げた。
「すっ、すいませんっ、おかわりっ!」
「あっ、はい、かしこまりました。」
コトバどおり、桜に魅入っていたバーテンダーが酒井のオーダーに我に返って返事をする。
「お前、ピッチ早ぇよ!」
「専務の車で送ってもらえるんでしょう?ならば飲む!うまいから!」
専務おつきの車が到着するまでの間、5人はハイボールと桜と、そしてバーテンダーのやさしい微笑みに酔いしれたのであった。