ゴール地点に一足先に着いた黒沢だったが、呆然と木々を見つめたのち、ガックリと項垂れた。
「どうしたの・・・?」
次に到着した安岡が黒沢に声をかけ、黒沢が見つめる視線の先を見た。
「あ・・・」
その林は私有地らしく、道路と林の境を「立ち入り禁止」の柵が隔てていた。
暗い林の中、たしかにそこに桜は見えているのに、これ以上は近寄れなさそうだ。
「うそぉ〜・・・雑誌だかテレビだかで見たヤツはたしかにこんな光景だったけど、柵なんて映ってなかったし、そんなことヒトコトも・・・」
「撮影のために特別に中に入れてもらったんだろ?だから『隠れた名所』だったってワケだ。」
「そんなぁ〜・・・」
村上の推測に、黒沢はその場にへたり込んだ。
「車呼んであるから、乗って帰りましょう。それまでここから眺めて待つことにしましょう。ね?」
さすがは「黒沢の保護者」として呼ばれた安岡。
黒沢の秘書時代から“面倒を見てやってる”だけあって、慣れた様子で“被保護者”黒沢を宥めている。
座り込んだ黒沢から顔を上げた安岡が、また何かを見つけ「ん・・・?」と呟く。
周りにいた4人も、安岡の視線の先をたどる。
鬱蒼と茂る私有林の隣、あと数メートル上ったところに店の看板らしき明かりが灯っている。
「こんなところに『Bar』・・・?」
「Bar?!酒っ・・・酒飲めるのか!!」
酒井がその店へ猛ダッシュで向かっていく。
「俺らも行こうか。」
「ああ。行くか。」
酒井の後を追い、北山と村上も歩いていく。
「さ、黒沢さんも、行きましょうか。ノド、渇いたでしょう?車来るまで飲んで待ってましょう。」
安岡が黒沢を立たせて、店へと向かった。