夕方5時。
この会社の定時である。
プロジェクトチーム室前に、本日の業務を終えたプロジェクトメンバーが続々と集まってきた。
「みんな集まったな。じゃ、早速行こうか〜。」
森山直太朗になりきって『さくら』を独唱する黒沢が、まず先頭をきって歩き始めた。
「ん?どこへ行くんです?」
いまだ事情を掴めてないまま黒沢を追う酒井を尻目に、村上と北山はその後ろでヒソヒソ話。
「で、どうだったんだよ?」
「いくら検索かけても、あんな少ないキーワードでヒットするワケがないでしょ!」
「だろうなぁ〜・・・仕方ない、一緒に探すフリして『お前の言う桜は幻だったな。はい、残念。』って言ってやれば、あいつもあきらめんじゃねぇの〜?
北山、ひとまずガマンしろ、これも秘書課との飲み会のためだ!」
小声で話すふたりの数歩後ろを、
「・・・俺、みんなみたいにヒマじゃないんだけどな・・・。」
専務・安岡が呆れ顔で4人を観察しながらついていった。
黒沢が言うところの『たしかここだったんじゃないかな〜?』という駅に降り立った5人。
都内か都下か、という絶妙なポジションにあるその駅前は、ほどほどに栄えており、仕事帰りのサラリーマンや部活帰りの学生が多く行き交っている。
「あっ、酒屋ありますよ酒屋!花見でしょ!『花見』といったら、やっぱ『酒』でしょう!」
移動中に北山からようやく事情を聞いた酒井が、駅前で酒屋を発見し、叫んだ。
そして赤塚不二夫のマンガのようにシャカシャカシャ〜ッと見えないほどの高速で足を交互に前へ出し、店内へと一直線に飛んでいった。
「まだ桜が見つかるかどうかの確証もないのに・・・」
「ま、いいんじゃね?ほっとけば。」
またもヒソヒソ話をする北山と村上。
そして、言い出しっぺの黒沢は、というと・・・
「たしかあそこの角曲がって少し行ったら、うまいインド料理屋があるんですよ〜!専務もデートなんかにどうです?」
出発直後からずっと安岡をつかまえていて、しかも延々話しかけている。
「あ、ああ・・・いつか行かせてもらうよ・・・」
安岡は社交辞令でそう答えつつも、実は内心「行くワケないじゃん!」と悪態をついていたりする。
しかし、さっきから黒沢がしきりに「桜」と「カレー」を連呼しているので、「次のヒット商品はこれがらみのモノなのか?」などと思考を巡らせる。
終業後もビジネスの嗅覚を休ませることはない安岡なのであった。
「酒買いましたよ、酒〜っ!桜、といったらポンシュでしょ〜!!」
酒屋の出た所で紙コップとむき出しの一升瓶を掲げて叫ぶ酒井を引きつり笑いで見つめる一同・・・
「おぉ!酒井いいぞいいぞ!お前、こういう飲み食いがかかった場面では俄然ヤル気を見せるよな〜!」
・・・若干1名除いて。