「・・・だいたいの場所とかわかんねぇのかよ?」
村上がそう尋ね、ミックスフライ定食についていた味噌汁の最後の一口を飲み干した。
「都内か・・・都下?」
「範囲広っ!」
黒沢のまたしてもあやふやな返答に、村上が半拍くいぎみにつっこんだ。
「さて、カレー食うかな!」
新たに「コロッケカレー」を手に席に戻ってきた酒井が早速それを食べ始めた。
「いや、あの〜、あれだよ?最寄り駅はね、『たしかここだったんじゃないかな〜?』っていうのはあるんだよ?
ただ、その駅はたしかちょうど都内と都下の境目ぐらいにあるとこでね〜。
駅のこっち側は都内〜、反対っ側は都下〜、みたいなカンジ、だったと思う!」
不確かなコトバを羅列させているとは思えないほどの自信満々な笑顔を浮かべる黒沢。
「な!わかるだろ〜、だいたい!なぁ、みんなで行こうよ〜。んで、そこでパァ〜ッと花見、やろうよ〜。なぁ〜。」
「俺は、おりるぞ・・・」
「俺も、おりるよ・・・」
ひとりハイテンションの黒沢に対し、村上と北山はローテンションで辞退を宣言する。
「なぁんで?!」
「なんで、って・・・さっきから言ってんだろ、お前のうろ覚えの情報を元に『俺も行きたい』って言うバカがどこにいるってんだよ。」
「そうだよ。それにね、そういうのは、ちゃんと自分で調べるなり何なりして、情報がしっかり固まってからみんなを誘うべきだよ。」
「そうっ、そうなんだっ、そうなんだけどぉっ!・・・でも自分でネット検索しても出ないし・・・
カレーの店の情報なら一発で記憶に残んのになぁ〜・・・」
「そんなうろ覚えの場所の桜を見たい意味がわからないよ。桜なら他にもあるでしょ?」
「やだ!人がいっぱい集まるような、みんなが知ってる桜の名所なんて興味ないもん!『誰も知らない』みたいなとこがいいんだもん!」
「『誰も知らない』って、お前も知らないに等しいじゃねぇかよ・・・」
ふたりに却下されても、黒沢の勢いは止まらない。
「だからこそ協力してもらいたいんだよぉ〜!な、頼むよぉ〜!連れてってくれよぉ〜!」
『行こう』という誘い文句がいつの間にか『連れていけ』に変化していることに、黒沢本人は全く気づいてはいない。