専務安岡のトンデモ人事に、当の本人たちだけでなく社内全体に衝撃が走った。
今回プロジェクトに選ばれなかった当該部署の面々の中には、素人5人をよく思わない人間も少なからずいる。
そんな波乱含みの中、特別プロジェクト「プロジェクトG」がスタートした。
まず年明け早々、早速異動が行なわれた。
安岡は朝から4人の異動先を順に偵察しに回った。
営業1課では、村上と酒井が居心地悪そうに着席している。
広報部では、北山が「我、意に関せず」といった様子で堂々と挨拶をする。
企画開発部では、黒沢が部内のピリピリムードに気づく様子もなく、机の上のレイアウトを思案し続けている。
それらはすべて想定の範囲内であり、安岡は満足気に頷くとその場を離れた。
早速開かれたプロジェクト会議。
各者が案を持ち寄り、順に発表する。
「まずは村上さん。お願いします。」
「あ、はい、えっとぉ、俺が提案するのはですねぇ、音楽とファッションの融合です。」
「音楽とファッション、の融合?」
「はい。今mp3プレーヤーの小型化が進んでいますが、カラフルになった程度でデザインは今ひとつです。
音楽を聴かない時間もアクセサリ感覚で装着したい、そんなデザインのプレーヤーの開発に取り組んでみてはどうでしょうか?」
村上は、その後も配った資料を例に挙げて説明を続け、独自でリサーチした街の声を発表した。
「村上さんありがとうございました。次は酒井さん、お願いします。」
「はい〜。私からはですね、お年寄り向けの商品を提案します。」
「お年寄り?それはなぜ?」
「よくぞ聞いてくださいました。あのですね、子供や若者向けの商品のヒットは、爆発力はありますが、飽きやすく持久力がありません。
一時的なヒットは、開発・発売の乱発に繋がるばかりでなく、当たりはずれもあり無駄が多いのです。
その点
お年寄りは、使い勝手がよくお手頃な値段の消耗品を継続して使う傾向にあります。
ネットを使わない年代ですが、クチコミの力も侮れません。高齢者社会に向け、ターゲットを絞ってみてはいかがでしょうか?」
酒井は、息の長いヒットを生み出す重要性について熱く語った。
「酒井さんありがとうございました。では、次は北山さん。」
「はい。私は若い女性向けの商品を提案いたします。」
「若い女性、ですか。」
「はい。若い女性の気持ちを掴めば、男性やその他の年代へと波及し、最終的には性別・年齢問わず大きなヒットに繋がります。
それともうひとつ。現在我が社は、他社と比べて広告の量が少なめです。
若い女性がよく見るサイトへの広告や、若い女性がよく見る時間帯のテレビCMなどを活用すれば、売れ行きの倍増も見込めます。
商品の売り上げを伸ばすだけでなく、これを機に我が社の名前を世間に売り込むいいチャンスになると思われます。」
北山は、新商品のターゲットだけではなく、新しい配属先である広報部の活用を強く訴えた。
「北山さんありがとうございました。最後に黒沢さん、企画開発部の目からお願いします。」
「あっ、はい!えっと、これからの時代は『恐竜』だと思います!以上です!」
目をキラキラさせて発言する黒沢に、安岡を除く3人は呆れたような表情を見せる。
「え、終わり・・・?」
「い、いきなり何すか、一体・・・恐竜って・・・」
「バ〜カ!ロクに説明もなく恐竜って何だよ?!それに根拠ない自信モリモリなのが意味わかんねぇよ!」
「え〜、根拠なんかなくていいだろぉ〜?勘だよ、勘。みんながいろいろリサーチしても当たるか当たらないかなんてわかんないだろ〜?
預言者じゃあるまいしぃ〜。」
「そういう問題じゃないでしょうにっ!」
3対1になって議論が始まったが、安岡はパンパンと手を二度叩き、仲裁に入る。
「はいはい、では全員の意見をまとめてみようか。
音楽とファッションと恐竜の融合。高齢者向きの恐竜。若い女性が食いつく恐竜・・・という結論だね。」
「え?」「エ?」「ゑ?」
「うん、そういうことになるねぇ〜。」
「ちょ、何言ってんだ黒沢!専務もマジ頼んますよ〜!」
「いやいやいやいや!目を醒ましてくださいよ専務!“黒沢さんマジック”にかかってますよ?!」
「ほ、本気ですか・・・?専務・・・」
「では各自、次回会議までにその案の商品化を進めておくように。今日の会議は以上だ。」