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ファーストカットは、シアターの赤い緞帳(どんちょう)。
コミカルな音楽とともに、「Welcome To Kinema Theatrical!」と書かれたタイトルのスーパーが踊る。

『Welcome,Ladies & Gents!本日は『キネマ・シアトリカル』にお越しいただき、誠に誠にありがとうございます!』

酒井の陽気なナレーションの後、タイトルスーパーが消えて、幕がゆっくりと開く。
真っ白なスクリーンに、正面から撮影された客席の映像が映し出された。

シートに横に並んで座っている5人の客。

メガネをかけビジネススーツ姿の北山。
今風のカジュアルな格好の安岡。
おたくっぽいファッションの酒井。
こじゃれた黒いスーツで着飾る黒沢。
サングラスをかけ、派手なシャツを着ている村上。

『上映に先立ちまして、みなさまへお願いがございます。』というナレーションの言葉に、5人は前に向かって少し身を乗り出すようにしてスクリーンに見入る。

カメラが真後ろのスクリーンへとスイッシュ・パン(早いスピードでカメラの向きを変えること)する。

映し出されたのは、開いたノートパソコンをヒザの上に載せ、携帯を耳に当てている北山の姿。
このようなスイッシュ後の映像はすべて、スイッシュ直前に映っていた客が見ていたスクリーンに流れている映画のワンシーンを表現している。

「ええ、その件に関しましては、当社で・・・はい・・・はい、ええ・・・」
「あのぅ!仕事は会社でしてくれませんかぁ?!」

上映中に携帯電話で電話する北山に、隣に座った安岡がつっこむ。
それと同時にストップモーション。
とはいえ、編集時にそこで一時停止をしているワケではなく、演者が動きを止めているだけだ。
もちろん、これは演出のうち。編集が面倒だからやっているのではない。
ストップモーションするふたりに、×(バツ)マークがデカデカと表示される。

『上映中は携帯電話のご使用をおやめください。電源は切っといてね!』
酒井のナレーションが入り、またしてもカメラがスイッシュ。

今度は、安岡が大きなヘッドホンをつけ、熱唱する様子が映る。
ヘッドホンからの音漏れもしている。

「♪きみのたっめに、さいごにでぇきる〜のはぁ〜」
「ちょっと!うるさいっすよ!全然聞こえないじゃないっすか!」

隣に座った酒井が安岡につっこむと同時にストップモーション、×マーク。
『上映中はお静かにお願いします。歌うのもしゃべるのもダメ!しっ!シャラップ!』

スイッシュして映し出されたのは、一眼レフカメラをスクリーンに向けてシャッターを切っている酒井。

「いいよ〜、いいよ〜。すごくいいよ〜。よし、じゃ、ちょっと服めくってみようか!」
「さっきから何撮ってんだよ〜?!」

隣に座った黒沢が酒井につっこむと同時にストップモーション。
×マークとともにナレーション。
『上映中の撮影・録音は固く禁じられております。記録していいのはアタマとココロのフィルムにだけ!』

スイッシュ・パン。
黒沢がスクリーンを見つめたままヒザに載せたトレイの上のナンをちぎり、カレーをつけて食べる姿が映し出される。
「うん、うまいな・・・うん・・・」と頷きながら、黒沢が隣の村上のシャツで手を拭う。

「何すんだよ!つか、お前何食ってんだよ?!」
隣の席の村上がつっこみ、ストップモーションと×マーク。

『ご飲食は周りの方のご迷惑にならないようお願いします。ここは映画館、映画を見るためのスペースですよ!』

スイッシュ。
自分の席を探し、ガニ股で歩く村上の姿。

「おぅ、ここかここか。」

ふんぞり返るような姿勢で腰を下ろす村上。
組んだ足が貧乏ゆすりで揺れ前のシートに小刻みに当たっている。

村上の前の席に座った北山が振り返り、「椅子蹴らないでください。」と注意。
そういう北山も足を組んでていて、前の席の安岡が「あんたもですよ!」と注意。
同じく安岡の組んだ足も前に当たっており、その前の席の酒井が「おたくもです!」と注意。
その酒井の足も同じように前に当たっていて、その前に座る黒沢が「そういうあなたも!」と注意。

4人の声に「うるせぇなお前ら!聞こえねぇだろ!」と怒鳴る村上。
「お前もだよ!」と同時に怒鳴り返す4人。
そしてストップモーション。

『前の席の背もたれは蹴らないようご注意を。自分がされてイヤなことはしない!これ基本!』

スイッシュ・パンし、冒頭と同じく、前に身を乗り出してスクリーンに見入る5人を正面から捉えたシーンへと戻る。

『さて、まもなく上映が始まります!これからの時間があなたにとってステキなものになりますように・・・Have a good time!バ〜イ!』

5人同時に、スクリーンのある正面に視線を向けたまま深くシートに腰かけ直したところで、カメラがズーム・イン。
映像が黒くフェイドアウトしていき、マナームービーはTHE ENDとなった。


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