あれから俺も大学生になった。
実は今、俺は着ぐるみを被るバイトをしている。
違う遊園地のキャラであるアライグマ、「あらっ太くん」のぬいぐるみの中。
そこが俺のバイト先だ。
大学入学後しばらくして、大学の学生課の片隅にある「バイト紹介コーナー」でその仕事を見つけた。
パークの看板や印刷物に描かれていたマスコットキャラクター、あらっ太くん。
今回新たに着ぐるみとしてパークに登場させることになったため、中に入る人間を募っている、とのこと。
俺はその求人を見て、すぐさま面接を受けに行った。
そこで高校時代の3日間の思い出を、面接担当の社員さんが軽くヒくぐらいの勢いで熱く語ると、即採用が決まった。
あれからすでに2年半が経った。
あの時と違って、今では自然とそれらしい動きもできるようになっている。
脱いだら見た目も動きも声も普通の男子大学生だけど、ぬいぐるみの中にいる時だけはあらっ太くんになりきる。
いや、なりきるんじゃない。着ぐるみに入った瞬間にあらっ太くんに「なる」んだ。
今日も、パーク内の関係者以外立ち入り禁止のバックヤードにある控え室から、俺、あらっ太くんが園内へと繰り出す。
早速ちびっこたちが駆け寄ってきて、握手を求めてきた。
「わ〜い!あらっ太くんだ〜!」
(は〜い、こんにちわ〜!)
あらっ太くんは、他の着ぐるみ同様声を出してはいけないから、お辞儀して子供たちのアタマを撫でてあげたりたりしてごアイサツ。
「いぇ〜い!」
ハラを殴ったり蹴ったりしてくるガキ・・・よくいるんだよな・・・
ハリボテだから痛くはないんだけど、こういう時はちょっと制裁。
まんまるおなかや大きなシッポで、相手が痛くない転ばない程度に反撃するんだ。
当たってることにすら気づかないフリをして。
あらっ太くんは常に笑顔で悪意を感じさせないから、結構便利なんだよね。
・・・あ、今のはここだけの話ってことで。
ゼッタイ誰にも言わないでよ?
♪ぴんぽんぱんぽ〜ん!
園内アナウンスのチャイムが響く。
俺は小首を傾げ、片手をアタマの上についた三角の耳の横に持っていき、放送を聞くポーズをとる。
子供たちも俺と戯れるのを一時中断して、スピーカーを見上げた。
「本日、なかよし広場におきまして『激闘戦隊アトラス』ショーが開催されます。1回目が午前11時から、2回目が午後2時から・・・」
「やった!アトラスだ〜!」と大ハシャギする子供たち。
俺がアトラス・レッドの決めポーズをして見せると、またもや歓声が上がった。
アトラス、やっぱ人気あるなぁ〜。
あらっ太くん、ちょっと妬いちゃう・・・。