Fight Christmas!
始まりは高校時代。
ある遊園地でのバイトを始めて間もない頃の話だ。
そこのパークのキャラクター、犬の「ワン田パーくん」の被り物の着ぐるみに入っているアクターさんが風邪で寝込んでしまい、ペーペーの俺はその代役をするようにと命令されたのだ。
キップ売り場だとか、メリーゴーランドの操作とか、フードコーナーでアメリカンドッグ作って売ったりだとか、そういうのがしたくて遊園地の求人に申し込んだのに、まさか着ぐるみの中だとは・・・。
最初は、体力にも自信ないしぬいぐるみっぽい演技なんてできるワケないし、丁重にお断りしていた。
しかし、上の人が、
「彼の風邪が治る間だけだから」
「それが終わったら、好きな場所で働かせてあげるから」
と、こちらが恐縮してしまうほどの低姿勢でアタマを下げてくるもんだから、断るに断れず・・・結局着ぐるみの中に入ることに決めた。
やってみて初めて気づいたのだが、着ぐるみってのは思っていた以上に動きにくいし視野も狭い。
それよりも何よりも、これまで何人ものアクターさんが袖を通してきた被り物は、ビックリするほどクサい・・・マジで卒倒するかと思った。
何で引き受けたんだと激しく後悔もした。
けれど一度引き受けてしまっただけに、今さら「クサいから」という理由だけで断れない。
仕方ない・・・
俺は意を決して一歩踏み出した。
フサフサの毛に包まれた巨大な犬の足を。
アクターさんの風邪が治るまでの3日間だけ、俺は「ワン田パーくん」になった。
決して楽な仕事ではなかった。
しかし、たくさんの子供たちの喜ぶ姿や笑顔が、ぬいぐるみの中にいる俺を笑顔にしてくれた。
犬の口から見る世界はまるで夢の中のできごとのようだった。
風邪から復活したアクターさんに礼のコトバをもらい、笑顔で応える俺のココロを、言い表せない寂しさが襲う。
何だろう・・・まるでお気に入りのオモチャを取り上げられた子供みたい。
ぬいぐるみに入る前に希望をしていたフードパークの仕事をしていても何か物足りない。
ソフトクリームを巻き巻きしながら、あの3日間に思いを馳せる毎日を送った。