「ん、なぁに?」
「実はですね、アトラスは今年の末で放送終了なんですよ。あの枠の戦隊モノは4(フォー)クール、つまり1年間なんで。」
「へぇ〜、アトラス終わっちゃうのかぁ。結構人気あるのに。」
俺が驚いていると、村上が少し身を乗り出して「ここだけの話だけどよぉ〜、」と小声で割って入ってきた。
「ほら、オトナの事情ってヤツだよ。新しい戦隊モノが出るたびにそれのおもちゃとかグッズとかバンバン売れるだろ?
長く放送すると次第に売り上げが落ちてくるし、短すぎると世間に定着しないまま終わるから逆に売れないし。
グッズが売れると、メーカーはもちろん、版権持ってるテレビ局的にもオイシイとかさ、とにかくゲス〜い魂胆が渦巻いてるワケよ・・・。」
「そういうオトナの事情で、たった1年で俺たちの衣装も、役も、台本も、ぜ〜んぶ入れ替えになるんですよね〜。」
華々しくて楽しそうな職場だけど、結構シビアな部分もあるんだな・・・。
「それでね、あらっ太くんさん。」
「はい。」
「関係者から次の戦隊モノの情報を少しもらったんですが、次のは4人体制の戦隊らしいんです。
もしよければ、あらっ太くんさんにどれか入ってもらいたいと思ったんです。」
北山の提案に、飲んでたペットボトルのお茶を噴きそうになった。
「えっ、お、俺ぇ?!い、いや、む、ムリだよ!俺はあらっ太くんの動きしかやったことないし、アクションなんてできないし!」
「いや、大丈夫ですよ、少し練習すれば誰しもできるようになりますよ?」
「いやいやいやいや!あの〜、俺ね、あらっ太くんが好きなんだよ。あらっ太くんを脱ぐ気には今はなれないよ。」
なおも勧めてきた北山に、俺は顔と両手を小刻みに左右に振って断る。
「あらっ太くんのこと、ホント好きなんだねぇ〜。」
「うん、すごくね。最初は『着ぐるみだったら何でもいいや』って思ってたんだ。
けど、このパークであらっ太くんをやってるうちに愛着が出てきたんだ。」
「1年で役が変わる俺たちとは感覚が違うんだね。」
「うん、そうかもしれないね。」
ここのパークのシンボルとして、看板や印刷物の中にしか存在しなかったあらっ太くん。
それが着ぐるみとしてデビューした瞬間からずっと、俺はあらっ太くんの中に入っている。
「着ぐるみに入っている時の俺=あらっ太くん」だから、それ以外は考えられないし、他の着ぐるみに入りたいとも特に思わない。
「そっかぁ・・・残念だな・・・」
北山が眉と肩を下げて、しょんぼりとしている。
「ごめんな北山。でもキモチはすごくうれしかったよ。ありがとう。」
思ったことをそのまま素直に伝えると、ようやく北山は笑顔に戻ってくれた。