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迎えたユージェニックスのデビュー戦。

パドックでユージェニックスの背に跨り、チラリとオッズを確認する。
俺がヤネ(騎手)ということもあって、人気薄だ。

「人気ない・・・」
『そりゃあそうだろう、アンタが乗ってるんだもんな。』
「お、お前なぁ!」
『ほら。イライラ厳禁!アンタはすぐそうやってイライラするんだから。』
「お、お前が緊張感なさすぎなんだろ?!」
『ああ、やだやだ気が短い人は・・・すいませ〜ん、騎手変えてくださ〜い!』
「あっ、バカ!何言ってんだよ!」

パドックから地下馬道を抜け、本馬場(ほんばば)入場だ。
返し馬を行い、ゲート前で輪乗りすると、緊張感のなかったユージェニックスのカラダからピリピリした緊張感が漂ってきた。
ゲートインが始まり、ついに俺たちもゲートへと歩を進める。
勝負服の上からペンダントを握り、その手を手綱に戻した。

『挽回するんだろう?』
「ああ。そのつもりだよ。」
『わかった。それでいい。』

各馬ゲートイン完了し、ゲートは開かれた。

スタートも悪くない。
ユージェニックスの脚質を考え、馬群の中段で様子を窺う。

「そのままだ・・・うん、そのまま・・・」
ユージェニックスだけではなく、自分自身に言い聞かせるように呟く。

4角(最終コーナー)を曲がり、最後の直線に差しかかる。

「ここだぁっ!!」

鞭を軽く入れると、ユージェニックスがグンとスピードを上げる。
他の馬もラストスパートをかけ、各馬 ゴールへと全力疾走だ。

しかし、ユージェニックスの伸びは他の追随を許さなかった。
およそ1馬身の差をつけて俺たちは1着でゴールした。

「マジ・・・?」
久々の勝ち鞍に俺自身も信じられない。

『ああ、その“マジ”のようだな。』
「ありがとう・・・ユージェニックス・・・」
『ま、もう少しキッカケが早かったら、もっと圧勝してたと思うがな。』
「な・・・っ!?」
『何はともあれご苦労さん。次回も頼むよ?』
「!・・・ああ、もちろんだよ。お疲れさま。」

ユージェニックスの首をポンポンと撫で、その背から降りた。
北山がユージェニックスを迎えに来る。

「黒沢さん、ありがとうございます。」
「いえ、こちらこそ。ありがとうございました。」
「また、他の馬でも騎乗依頼出してもいいですか?」
「あっ、はい、もちろんです。」
「ではまた、厩舎でお待ちしています。」

万年シンガリ負けの俺が穴をあけた(人気薄で勝利した)ことは、競馬界で少々話題になったようだ。
“復活”ではなく、“まぐれ”として、だ。

汚名返上に至るには、まだまだ時間がかかりそうだ。


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