5人は翼を縮め、肩も狭めるようにして、後部座席に身を埋める。
やはり気になるのは、自身の、いや、5人の背中から生えた翼の存在である。
口を開くとその話題になってしまいそうなので、全員黙ったまま車に揺られていた。
いつもしゃべって時間をつぶしているか、眠って過ごすことが多い車内が、今日は異様なムードに包まれている。
そんな中、突然車が道路の真ん中で急ブレーキをかけて停止した。
急停止をした衝撃で、車内全員のカラダが大きく前後に揺れる。
「ど、どうしたの?!」
「いや、歩道から道の真ん中まで人が溢れ返ってまして・・・ちょっと見てきます。」
マネージャーが車を降り、原因を調べに行った。
「今日はおかしなことばかり起きるな・・・」
マネージャーが走って運転席に戻ってくる。
「そこのビルの屋上に男の人が立ってて、今にも飛び降りそうなカンジなんです。
やじ馬がどんどん集まってきてるので、前に進めそうにないです。迂回しますね。」
「俺らもちょっと見に行くか。」
マネージャーの制止よりも先に5人は車から飛び出していく。
「ちょっと!5人で出て行ったらますますパニックになりま・・・あ〜ぁ、行っちゃった・・・」
5人は、建ち並ぶ高層ビルの屋上を見上げながら走った。
「あっ!あれですね!」
酒井が指を差す方向を見る。
見れば、中高生ぐらいの若者が柵の外側のわずかなスペースに立ち尽くしていた。
やじ馬からは「やめろ!」「早まるな!」などと制止の声が飛んでいる。
「この羽で飛んでいけたら、とめれるのにな・・・」
北山が悔しそうに呟き、クチビルを噛み締めた。
「北山・・・?」
「何で羽が生えたの?なんにも役立たない羽なんか必要ないじゃないか・・・!」
北山の背中の翼が、羽ばたくようにバサッと音を立てて動く。
「くそっ!」
ビルに向かって駆け出す北山を、4人が追う。
「待て北山っ!」
「行ってどうなるって言うんだ?!」
前に伸ばした村上の手が北山の腕に届くか届かないかのところまで迫った、まさにその瞬間。
「え・・・?」
一歩前に踏み出した北山の片足が、踏み外したように空(くう)を切る。
翼が風に乗るように羽ばたいたかと思うと、北山のカラダがふわりと宙に浮いたのだ。