「仕方ない!」
酒井がサラシを拾い上げながら沈黙を破った。
「サラシ、4人分買ってくる!」
高らかに宣言した酒井はサラシと服を元どおりに身につけ、控え室を飛び出していった。
「酒井さん、飛び出してっちゃったけど大丈夫かな・・・」
「まぁ、酒井のことだから何とかうまくやってくれるだろ。とりあえず俺はスタッフに撮影の開始時間遅らせるように頼んでくる。」
村上もシャツを拾い上げ、袖を通す。
「てっちゃん!そのカッコじゃ意味ない!」
「あ、そっか・・・」
北山に指摘され、村上は翼が生えて盛り上がった肩をガックリと下げた。
「じゃあ、俺と安岡で頼んでくるよ。俺たちふたりのカッコなら何とか隠し通せそうな気がする。・・・行こう、安岡。」
「おっけ〜。」
黒沢と安岡がシャツに腕を通し、北山も「俺だけハダカってのもヘンだから。」とシャツを羽織る。
身支度を整えた黒沢はダウンジャケットで、安岡はリュックで背中を隠し、控え室を後にする。
季節はずれなダウンジャケットと年甲斐もないリュック・・・何とも不思議な取り合わせだが、背中の膨らみが見えないだけマシである。
ふたりは出版社の担当者の元へ行き、「衣装が届いていないから」などウソの理由を並べ、もうしばらく待ってほしいと頭を下げた。
理由はウソであったとしても、申し訳ないという気持ちには一切ウソはない。
ウソをついたことに対しても心苦しさが倍増した。
「わかりました。もうしばらく待ってみましょう。では私どもは先に昼食に行ってきますので、戻りましたら撮影開始ということで。」
「どうもすいません!ありがとうございます!」
ふたりで担当者とその他スタッフに頭を下げまくって、控え室に戻った。
「・・・どうだった?」
ふたりが控え室のドアを開けると、北山が不安げに尋ねる。
「何とか遅らせてもらえることになったよ。取材スタッフ、『先に食事に行く』って出てったよ。」
「かっなりキビしいイイワケだったけどね!これでなんとか少し時間稼ぎができるかな?」
「悪ぃな。ヘンなことまかせちまって。」
申し訳なさそうに頭を下げる村上に、ダウンジャケットを脱いだ黒沢が「お前のせいじゃないだろ〜?」と顔を横に振る。
「でも〜・・この羽、消す方法ってないのかなぁ・・・」
背負っていたリュックを下ろした安岡が、頭を抱え、考えを巡らせる。
「たしかに。隠すのもひとつの手だけど、いつまでも隠し通せないよ。」
北山のコトバに、3人は深く頷く。
バン、という激しいドアの音と共に、酒井が控え室へと転がり込んできた。
「酒井!どうしたんだよ?!」
床に倒れて もがく酒井の元に4人が駆け寄る。