「それはそうと、黒沢さん何で部屋ん中でダウン着てるんです?」
「あっ、いや、そのうち・・・」
「ホクさんどうした?具合でも悪いのか?」
「あ、べ、別に・・・平気だよ・・・」
「安岡は何でリュック背負ったままイス座ってるんだ?座りにくいのに。」
「え、あ、ファッションだよ、ファッション・・・」
静けさが訪れたちょうどその時だった。
ものすごく大きな足音が廊下に響き、だんだん控え室に近づいてきたかと思うと、ノックもなくバンと勢いよくドアが開いた。
「たっ、大変、大変だっ!」
「なななな?!リーダー、ど、どうしたんですか?!」
「マジ大変なんだよっ、朝起きたらさぁ、俺っ、あのっ、あれだよ・・・」
「てっちゃん、ちょっと落ち着いて!」
「どうしたのテツ!?一体何があったの?!」
「村上、何が大変なんだよぉ〜?」
村上は「ぅあ〜っ!助けてください!神様、仏様、代打の神様・八木様〜!」と呟きながらジャケットを脱ぎ、シャツのボタンを外し始めた。
村上の慌てっぷりがあまりにも異様で、4人もさすがに心配になってきた。
「こっ、これ・・・見てくれ!」
村上はシャツを脱ぎ、背中を4人の方へと向けた。
左右の肩甲骨のちょうど真ん中あたりに、手のひらほどの大きさの白い翼が横に並んでふたつ生えている。
「え、お前もぉ?!」「アンタもかっ!」「てっちゃんも?!」「テツもなの?!」
4人が同時に発したコトバに、時が止まったかのように静まり返る控え室。
「・・・えぇ〜っ?!」
5人は同時に絶叫に近い声を上げた。
驚くのも無理はない。
翼を生やしているのが村上ひとりだけでも異常事態であるのに、5人揃って・・・ときたもんだ。
ダウンジャケットを脱いだ黒沢の背中にも、起き上がった北山の背中にも、リュックを下ろした安岡の背中にも、不思議な盛り上がりがある。
自分の身にも起こっていたことだ。わざわざシャツを脱がなくとも、その下に何があるかなんて見なくてもわかるのだ。
「あれ?酒井は盛り上がってねぇじゃん。」
「そ、それがですねぇ・・・」
酒井がシャツを脱ぎ捨てると、サラシによってぐるぐる巻きとなった上半身が現れた。
「すごっ・・・雄二よくやったね、これ・・・」
「以前着物を着る仕事があった時に用意してもらったモノなんだ。その時は結局使わずじまいだったんだが、ここで役立つとはな・・・」
「酒井さん、これ痛くないの?」
「んまぁ、痛かったがなぁ・・・今日は撮影あるし、背中がコンモリしてたらおかしいかなと思ってな・・・」
酒井がサラシを解いて一息つくと、窮屈そうに縮こまっていた翼がふわっと広がった。
「そうなんだよ、よりによって撮影の仕事なんてな・・・どうするよ、これ・・・」
村上が翼をパタパタと揺らしながら、うなだれる。
「う〜ん・・・ちょっと今日はムリなんじゃない?延期にしてもらえないのかな・・・」
「今回の雑誌取材、ニューアルバムのプロモーションのだから、日を遅らせるワケにはいかねぇだろうな。」
「え〜?でもこんなんじゃ用意してる衣装も入らないかもしれないぞ〜?」
再び静寂が訪れる5人だけの空間。