この背中に、希望を。
3月。
暖かくなったかと思ったら、冬がまた後戻りしたように寒くなったりで、調子が取りにくい時節だ。
黒沢はその日、随分と季節外れな厚手のダウンジャケットに身を包んでいた。
「おはよ〜・・・」
ドアをノックし、極力余分な表情を出さないようにしながら控え室へと入る。
「おはよ。・・・って黒ポン、何そのカッコ・・・」
入って早々、控え室に設けられた畳の間に仰向けで寝転んでいた北山に突っ込まれた。
想定どおりの指摘だったが、黒沢は思わずビクリと肩を揺らしてしまった。
「あ、お、おぅ・・・ちょっとな・・・。」
黒沢は、なんとも煮え切らない様子で返事をする。
「ってお前も珍しいな、寝転んでるなんて。いつもイスに座ってるだろ〜?」
「あ、あぁ・・・うん、今日は寝転びたい気分だったんだよ。
・・・それはそうとダウン脱がないの?この部屋、暖房効きすぎで暑いぐらいなのに。」
「あ・・・うん、そのうち・・・」
両者ともに、いつもと様子が違う。
長年一緒に仕事をしているので、メンバーの異状はすぐに気づくのだ。
ドアのノックの後、「おはよ〜・・・。」と言いながら安岡が控え室に入ってきた。
「あれ、安岡、今日リュック?珍しいな〜。」
「昔はよく背負ってたけどね。」
黒沢と北山が顔を見合わせる。
「あっ・・・え、うん、そうそう。久しぶりにね、リュックで出勤したいなって気分だったんだよね〜。」
「『気分』ねぇ〜・・・」
「何?黒ポン。」
「ううん、別に〜・・・」
黒沢と安岡がぎこちない会話を続けていた時、今度は酒井が到着した。
「ぐっも〜にん、えぶりわぁんっ!!」
「おはよ。・・・って、雄二どうしたの?やけに元気・・・というか、から元気ってカンジ。」
北山がそう指摘すると、酒井は目を泳がせた。
「えっ!?あ、え、えと・・・いやいや、そんなことないぞ〜!俺はいつだって元気モリモリ、夢がMORIMORIじゃないか!」
「ウソばっかり。いっつも眠っそ〜に入ってくるクセに〜。」
安岡が眉を顰めて反論する。
何も言葉を発していない黒沢からも猜疑の視線・・・。
酒井の弁解はどうやら逆効果に終わったようだ。