「・・・さて、早速話を元に戻そうか・・・君は何で『死にたい』って思ったの?」
北山が尋ねた途端、再び張り詰めたムードになった。
「お前たちには、関係ないだろ・・・」
「関係なくはないです。少しの間だけど一緒に時間を過ごした仲ですからね。ますますほっとけません。」
「『仲』って何だよ?!親しいワケでもないのに!」
酒井のコトバに、少年は声を荒げた。
「じゃあ今から仲良くなろうよ!」
「ホントだ!それじゃ、ダメかな?」
少年の苛立ちもものともせず、安岡と黒沢も口を挟む。
「何だよそれ!ココロにもないこと言うなよ!」
「何でウソだと思うんだ?・・・信じてもらえなくて残念だな・・・」
「信じるかよ・・・誰も・・・」
「何で信じられなくなったんだよ?」
村上がついに真相に迫った。
少年は、グッとコトバを詰まらせたが、観念したのかぽつりぽつりと語り出した。
少年の言い分は、こうだ。
中学で同じクラスの友達がいじめられていることを知り、助けを出したが、今度は自分が標的になった。
途端に、それまで仲良くしていた友達が離れていき、助けてくれる者はいない。
しかも、助けてあげた友達すらも、避けるように逃げていく。
いじめはさらにエスカレートしていき、ついに耐えられなくなった・・・と。
「そっか・・・そんなことが・・・」
「助けてあげただけなのに。理不尽だな。」
悲惨な現状を知り、5人は一様に沈痛な面持ちで少年を見つめる。
「今は・・・助けなかったらよかったと思ってるよ・・・」
「そんなことない!君のしたことは悪いことじゃない!いいことだよ!」
「誰かにいいことをした分は、いつかきっと自分に返ってくるって!」
「でも実際何も返ってきてないじゃないか!誰も助けてくれないんだぞ?!」
「『誰も助けてくれない』?・・・君は・・・自殺を思いつくよりも前に、誰かに助けを求めた?」
北山のコトバに、少年が顔を上げる。
「・・・え?」
「もちろん、一番悪いのはいじめてる側だけど。ちゃんと相談した?友達とか先生とかご両親に。」
「・・・友達に言ったら、またそいつがいじめられるじゃないか・・・。
友達も、自分の身にまで危険が及ぶかもしれない相談なんて乗りたくないだろうし・・・」
「じゃあ先生は?ご両親は?」
「・・・言ってない。」
「どうして?」
「バレたら、またいじめがひどくなるから・・・」
少年の八方ふさがりな話に、村上が大きなため息を吐く。
「お前さ・・・そんなに何でもかんでも自分ひとりで抱え込むなよ。それとさ、もっと周りを信用しろよ。
俺が親だったらさ、相談されずに自殺されたら、すっげぇショックだわ。『そんなに俺って信用されてなかったのか』ってな。
だからさ、とりあえず、先生とか親とか相談窓口とか関係省庁だか何だか知らねぇけど・・・ほら、いろいろあるだろ?
手当たり次第相談してダメだったら、その次の手を考えたらいいだろ?」
「そんなカンタンに言うけど・・・!」
「とにかく・・・命ひとつ捨ててまで、いじめてくるようなバカな連中に苦しみを理解してもらおうとするなよ。
バカが理解することより、お前の命の方が重いし大切なんだよ。」
村上の説得に、少年は堰を切ったように号泣した。