3分後。ようやく黒沢が戻ってきた。
楽屋を出ていく時と同じように、笑顔で包丁を持った状態で、だ。
「おまたせ〜♪」
『スタッフが包丁取りに行った方が早かったんじゃね?』
4人はそう思っていたが、それを口に出す者はいない。
「お、おぅ、じゃ、頼むな・・・。」
「おけ〜♪」
ゴキゲンでそう返事した黒沢だったが、スイカのテッペンへ包丁をあてがったところで、ぴたりと動きをとめた。
「・・・どうしたの?」
「5等分、って・・・どうやって切るの?」
「は?」
「え?」
「き、北山頼んだ!」
「頼むったって・・・72度に・・・」
「だからそれをどうやって測るの?」
「・・・分度器、なワケないか・・・」
若干パニックに陥る楽屋。
原因はたかだかスイカなのだが。
「とりあえずさ、テキトーに6等分に切れよ。んで、全員で早食いして、勝ったヤツが残り1切れも食えるようにすりゃいいんじゃねぇの?」
「おっ、それいいな!俺、『志村食い』得意だぞ!」
勝負事が大好きな村上の提案に、同じく負けず嫌いな酒井がいち早く賛同する。
「え〜、ヤダよ!せっかく高いスイカもらったんだから、ゆっくり味わって食べたい!」
「俺も。てっちゃんや雄二に勝てるとは到底思えないし。」
反対意見を出したのは安岡と北山。
黒沢はスイカを拳でコンコンと叩いて、「お〜、いい音〜♪」とひとりごと。
平和的に解決できれば何だっていいということだろうか、食べられれば何だっていいということだろうか、はたまた何も考えてないのだろうか。
真意は本人にしかわからない。(いや、もしかしたら本人もよくわかってないかもしれない。)
「とにかく6等分に切れ!黒沢!」
「っえ?!6等分?6等分でいいの?」
急に話を振られ何度も聞き返す黒沢に、安岡が詰め寄り、「ダメダメ!5等分!」と必死に阻止。
「えぇ〜?どうすりゃいいんだよぉ〜?」
「北山さんも早く別の策を練ってよ!この日のために勉学勤しんできたんでしょ?!」
「いやいや、この日のためじゃないし!」