次にロビーを通りかかったのは酒井。
村上の顔に何やら違和感を感じ、ゆっくり近づいてゆく。
「・・・ぷ〜っ!『肉』ってオイっ!・・・ってイカンイカン!俺の笑い声で起こしたら、犯人俺になってしまうじゃないかっ!」
酒井は慌てて口を押さえ、肩を震わせて笑った。
「おもしろいからこのままほっとくとするか。」
酒井は村上の元を去ろうとした時、少し離れたところで幸せそうに眠る黒沢が目に映った。
胸元のポケットには油性ペンが刺さっている。
「犯人はあいつか!つか、ポケットにペン刺しっぱなしってひどいな・・・『俺が犯人だ』って言ってるようなもんじゃないか・・・」
酒井は音を立てないようにゆっくり黒沢に歩み寄り、ポケットから油性ペンを引き抜くと、黒沢の額にペン先を近づけた。
「・・・『にく』・・・ぷっ!ミートくんそっくり!パンダの絵のTシャツ着せたいぞ!」
酒井は、黒沢のように油性ペンを手元に置くようなヘマはせず、ペンを元の位置に戻しに行った。
「さ〜てと。俺も寝るか。」
酒井もまた眠気には勝てず、空いたソファにゴロリとカラダを横たえた。
次にロビーにさしかかったのは北山。
村上の額に書かれた『肉』の文字を目敏く見つけ、膝が壊れたように笑い崩れた。
「に、『肉』っ・・・『肉』って・・・あ?えっ?えっ?ちょっ、こっち『にく』になってるっ・・・はっ、ははっ・・・」
声にならない声で笑いながら、腹を抱えている。
「あ・・・この『にく』っていう字・・・雄二の字だ・・・犯人バレバレじゃんっ・・・」
北山はヒィヒィ笑いながら、軽い身のこなしでどこかへ向かって駆けていった。
そして30秒後、油性ペンを握り締めた北山は、ゆっくり酒井に近づき・・・
「『中』・・・あとヒゲも書いて、っと・・・」
額に『中』という字、そして上唇の上から下に向かって左右に2本、ナマズのような長いヒゲを書き加えた。
「ウドンマンなんていないからラーメンマンでいいよね。同じ麺類だし。」
ひとり納得しながらそう言って、油性ペンをしっかりズボンのポケットに捩じ込み、空いたソファに身を埋めて目を閉じた。