カレー屋を出て、俺は敵に見つからないようにホテルまで走った。
ゲームの中ではボタン押しながら矢印キーを押すとダッシュになるのだ、なんて思いながら走る。
「早いよ!」
後ろから声がするが、“ドロロンえん魔くん帽”を手で押さえながら、なんとかピッタリと食らいついてきている。
ホテルに戻った俺たちは、カバンをクロークから返してもらって一度部屋に入り、タクシーで会場へ向かった。
会場に到着すると“地元料理探検隊”の3人は、すでに楽屋入りしていた。
やっぱ店主にてこずった分、俺らの方が遅かったな。
それぞれにストレッチしたり発声練習したり居眠りしたりしながら、開演時間が訪れるのを待った。
そして迎えたオープニング。
キッカケとともにステージへと向かう。
もしや、と思ったが、俺の読みどおり・・・客席のファンが敵になり、バトル突入となった。
しかもラスボス(最後のボス敵)じゃないか!
地鳴りのような大きな歓声がまるで大きな固まりとなって俺たちに襲い掛かってきた。
しょっぱなからすげぇダメージ受けてるぞ!
こっちも負けじと、歌を使って必死に応戦する。
「こんばんわぁ、ゴスペラーズでぇす!」
「きゃ〜〜〜っ☆」
黄色い声が矢のようにこっちに飛んでくる。
MCコーナーになり、安岡が俺に話を振ってきた。
「今日ねぇ、朝から酒井さん変なんですよ〜。」
「へ?」
「うん、変だった。」
北山もウンウン頷いている。
「俺が皮製の帽子被ってたら、『皮の兜』がどうのとか・・・」
「俺は『賢者の服』がどうとか・・・」
「俺なんて『上半身裸』だぜ?!」
「俺、『ドロロンえん魔くん』だった。」
「いや、アンタがドロロンえん魔くんなワケじゃなくて!」
ワケのわからないやりとりに大爆笑が起こる。
ファンに説明しないと、絶対意味伝わってないよな。
「いや、あのね、今日ね、ホントおかしいんですよ。
俺の頭の中で日常がロールプレイングゲームで表現されてるんですよ。朝からずっとですよ。」
「全然話が見えないんだけど?」
すかさずリーダーのツッコミが入る。