運転手、左手でハンドルを動かしながら、右手で胸ポケットから携帯電話を取り出す。
右手で簡単に操作したのち、耳に当てる。
運「もしもし、よっちゃん?!父さんだ!今なぁ、後ろに誰乗せてると思う?
・・・わからない?よっちゃんの好きな・・・ほら・・・え?ゴスペラさん?
アカペラさんじゃなくて?違う?ゴスペラーズ?ゴスペラーズって言うのか?
父さんてっきりアカペラさんだと思ってたぞ!」
客「(ぽつりと)減点されちまえ・・・」
運転手、客の言葉も耳に入っていない。
なおも通話は続く。
運「え?どんな人って?サングラスかけた・・・てっちゃん!てっちゃんっていうのかぁ!
ほぉ!そうか!ほぉ!・・・ん?何?・・・ちょっと待っててな〜♪」
運転中にもかかわらず、思いっきり後ろを振り向く運転手。
運「てっちゃん!」
客「うわっ!何やってんすか!前見てください、前!」
運「てっちゃん!電話出てやって!」
携帯電話を客に渡そうとする運転手。
客「前!前向けってんだよ!!」
運「頼みますっ!娘、ファンなんです!」
客「前っ!・・・もうっ!」
引ったくるように電話を受け取る客。
うれしそうな笑顔で前を向く運転手。
客「(テンション低く)・・・もしもし・・・はい・・・はい・・・はい・・・はい・・・
北山?北山は今はいませんっ!」
客キレ気味に電話を切り、運転手に突き返す。
運「いやぁ!どうも!ありがとうございます!
よっちゃん、あ、よっちゃんっていうのはウチの娘なんですがね、そりゃあ大喜びですよ!
この携帯もてっちゃんが持ったってことでウチの家宝ですよ!
あとで携帯にサインしてくださいね!いやぁもう!今日はいい日だぁ!うん!」