「じゃ、はい。自分の娘、抱いてあげてください。」
黒沢がいろはを男に差し出すと、男は受け取り、そっと胸に抱いた。
「じゃあね、いろはちゃん。」
酒井がいろはに小さく手を振った。
「・・・いろいろご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。ありがとうございました。」
男がお辞儀をしたと同時にいろはがグズりだした。
「おかしいなぁ。ここに来る前にミルクもあげたし、オムツも替えたのに。」
「んぎゃぁ〜!ぎゃぁ〜!」
本格的に泣き出したいろはに男はオロオロと戸惑いの表情を浮かべた。
「あれ歌うか。」
村上が4人に声を掛けると、北山が音叉を鳴らした。
5人で音を採り、指を鳴らし、声を重ねてゆく。
「♪探してた明日が 今ここにあるよ」
5人はいろはに、いろはの父親に『星屑の街』を歌った。
最初は火がついたように泣いていたいろはも、次第に静かになり5人のハーモニーに聞き入っていた。
曲が終わる頃には、さっきまで泣いていたのが嘘のように小さな寝息を立てて眠ってしまった。
「みなさん・・・ありがとうございました・・・」
父親は流れる涙もそのままに、眠るいろはを抱き直して頭を下げた。
そしてドアを開け、ふたりは去っていった。
「・・・行っちゃいましたな・・・」
酒井はずるずると椅子に座った。
「あ〜、なんか拍子抜けちゃったなぁ。」
他の4人も椅子に腰掛け、机に突っ伏した。
「仕事やる気出ねぇ〜・・・」
その日は5人全員うわの空で、仕事にはならなかった。