「あっ、コラ待てっ!」
酒井が追って来る。
俺はベッドの下に隠れた。
「お〜い」
じっと身を潜める。
「お〜い」
酒井の足がベッドに近づいてくる。
「お〜い」
酒井は床に這いつくばってベッドの下を覗き込む。
「お〜い。・・・追い出したりしないから、さ、出ておいで。」
俺に手を差し伸べてニッコリと笑う。
顔色を窺いながらそろそろとベッドから抜け出すと、酒井は俺の脇の下に手を差し入れ、高々と持ち上げた。
「よしっ、捕まえたっと。」
酒井のやわらかな笑顔を見て、ほっとする。
「お前に名前つけてやらんとな〜」
まじまじと俺の顔を見てから、こう言った。
「黒いから『黒ポン』。ハイ、決定!」
雄二は、ははっと小さく笑ったかと思うと、すぐに悲しそうな顔をした。
「黒ポンどこ行ったんだろ・・・」
“ここだよ!俺だよ!黒沢だよ!”
「にゃん!にゃ!にゃぁ!」
一生懸命伝えようとするが、伝わるはずもなく。
「カレー部の部員として、あそこはついて行っとくべきだったんだ・・・」
そう言うと酒井は唇を噛んで目を伏せた。
酒井・・・
ごめんな、心配かけて・・・
俺は引っ掻かないように、そっと酒井の頬を撫でた。