3.nach Haus gehen(ナーハ・ハオス・ゲーエン)
酒井が部屋のドアを開けた音で目覚めた。
路地で迷って、躓いて転んで、カラダのいろんなところを打って、目醒めたら猫になってて―――
肉体的にも精神的にも疲労が溜まっていたのだろう。
酒井に抱かれて帰っている間に眠ってしまったようだ。
「はい、入って〜」
玄関入ってすぐのフローリングの廊下にそっと置かれる。
“おじゃましま〜す”
「にゃ〜〜ぉぅ」
廊下を進むと広いリビングにふたり掛けのソファが置かれており、その奥の部屋には大きなベッドが見えた。
所狭しと置かれたCDや機材やらなんやらが散乱しているが、以前家に遊びに来た時よりは若干小奇麗になっていた。
広い部屋に引っ越したからかな?
きょろきょろと室内を見渡していると、酒井が目の前にしゃがんで言った。
「ハラ減ってない?なんか食う?」
もうハラペコだよ〜!
“食う食う!”
「にゃにゃん!」
「ちょっと待ってろ〜」
俺の頭の上にぽふっと手を置くと、酒井はキッチンに向かって行った。
酒井は冷蔵庫やカウンター開けて食料を探していたようだが、キッチンでしばし難しい表情で立ち尽くした後、しょんぼりして俺の元へ戻ってきた。
「すまん・・・サトウのごはんとボンカレー辛口しかない・・・」
申し訳なさそうにガックリと肩を落とした。
“カレー!?食べたい!”
「にゃ!にゃにゃあ!」
「なんかお前の食えるもん、今から買ってくるからちょっと待ってろな」
“カレーがいいんだって!買いに行かなくていいから今すぐ食わせてくれ〜!”
「にゃぉぉ〜にゃん!にゃにゃにゃにゃ〜ん、にゃお〜ん!」
俺は足にしがみつく。
行かせないぞ!
「いててててっ!爪立ってる爪立ってる!」
あっ・・・ごめん・・・ハラ減りすぎて、つい・・・。
「こらっ!ダメだろ〜!?
言うこと聞かない子は出て行ってもらうからね〜」
それは困る!
酒井に抱き上げられそうになり、咄嗟にベッドルームへ逃げ込んだ。