去っていく女の子を見送っていると、見覚えのある姿が見えた。
酒井?!
何か考え事をしているように、ぼ〜っと歩いている。
“お〜い!酒井〜!”
「にゃおぉ〜〜ん!」
酒井の耳には届かなかったようだ。
“酒井〜!!”
「にゃお〜〜!」
俺は酒井に向かって走って行くと、ジーンズの足元に飛びついた。
「うわっ!なんだなんだ!?」
酒井は歩道の真ん中で素っ頓狂な声をあげる。
「なんだ〜、どうしたお前〜」
大きなカラダを屈めて、足にしがみつく俺をまじまじと見ている。
“俺だよ俺!黒沢だよ!”
「にゃぉぅ、にゃにゃ〜!」
酒井は俺の首根っ子をひょいとつまみ、もう一方の手のひらですかさずおしりの部分を支え、持ち上げた。
顔の高さが一緒ぐらいになる。
「お前かわいいなぁ〜」
“酒井!俺だよ!”
「にゃおにゃお」
「どうした?ん?」
酒井は目線を少し下にずらし、また目を合わせた。
「お前オスか〜」
“バカっ!どこ見てんだよ!”
「みぎゃぁ〜ぉぅ!」
俺は酒井の鼻にパンチを入れた。
「っ・・・いってぇ!」
殴ったつもりが引っ掻いてしまった。
「こら〜っ!引っ掻いちゃダメだろ〜?」
俺の顔を覗き込む酒井の鼻には、小さな引っ掻き傷が3本できていた。
「お前と遊んでやりたいけど、今日はそういう気分じゃないんだ。ごめんな。」
そう言うと、酒井は俺をアスファルトの上にそっと置いた。
いやいやいや!そうじゃなくて!
ここで置いていかれたら、俺はもう生きていけない!
“やめろ!置いていくなよ!”
「にゃん!にゃぉ〜!」
俺はもう一度足元に飛びついた。
テコでも動かんぞ!
見上げると、酒井は呆れたような顔で溜息をついた。
「・・・わかったわかった。今日は連れて帰ってやるから。」
“ありがとう酒井!”
「みゃぁ〜ん!」
酒井はもう一度俺を持ち上げると胸の中に抱いた。