俺が風呂から出た時には、くろはすでに夢の中だった。
部屋の明かりを絞った部屋の中、寝る体勢をとった状態で全員で策を練る。
「まず、だ。何で黒沢とくろが入れ替わったんだ?」
「たしかくろ君の話によると、人間になりたいって思っていた時に黒ポンに触ったら入れ替わった、らしいんだが。」
「ということは何?くろが猫に戻りたいって願ったら、元に戻るってことなの?」
「そういうことになるかもしれんな。」
「・・・もし・・・くろが人間のままがいい、って言い出したら・・・」
「元には戻れないってこと・・・?」
「そんなバカな・・・」
「だって現に、黒ポンは元に戻りたいって思ってても、戻ってないワケでしょ・・・?」
たしかにそうだ・・・俺たちの頭上で一気に暗雲が垂れ込める。
「と、とにかく・・・明日ママさんに会いに行きましょう。くろ君も会いたがってることですし。」
「そうだな。ママさんに会う前に、くろに『猫に戻りたい』と願ってもらうように頼んでみるか。
・・・今日も朝早く起きたから、みんな疲れてるだろ。そろそろ寝ようぜ。」
「そうだね・・・」
「おやすみ・・・」
4人は部屋の明かりを消して、布団被って眠りに就いた。
俺はソファの上で丸まった。
くろが元に戻りたくないって思ったら、どうしよう。
このまま元に戻れなかったら、どうしよう。
そう思うと、不安で恐くて・・・なかなか寝つけなかった。
明け方まで眠れず、やっとウトウトし始めた頃、物音で目が覚めた。
くろが、脱げかけの浴衣のまま窓に歩み寄り、空を眺めていた。
朝日が昇っていくさまを、ずっと見ている。
俺は起きて、くろの横に立った。
「あ、おにいさん。」
“みんな寝てるから小さな声でな。”
「にゃぉにゃぁんにゃ」
「うん。」
くろは声のボリュームを絞って返事した。
「ままさんにはやくあいたいなぁ・・・。」
“今日、みんなが連れて行ってくれるよ。心配しなくていい。”
「みゃんみゃにゃあんにゃにゃにゃん」
「やったぁ〜♪」
“くろはママさんのこと、好きなんだな。”
「にゃにゃみゃぉにゃあん」
「うん、ままさんのことだいすきだよ〜。
うまれてすぐにねぇ、ままがいなくてねぇ、はらぺこでねぇ、ないていたらねぇ、ままさんがはこのなかからだしてくれてねぇ、みるくくれたんだよ。
そのあともねぇ、ごはんくれたりねぇ、おにくくれたりねぇ、おさかなくれたりしてねぇ、すっごくおいしかった。
だからままさんにねぇ、ありがとうっていいたいんだ〜。もうじぶんでねずみもとれるから、びょうきゆっくりなおしてねっていいたいんだ〜。」
“そうか・・・。”
「にゃ」
ママさんは、くろにとって命の恩人なのだ。
ママさんがいなかったら、くろは今いなかったかもしれない。
俺はくろの話を聞き、自分の中で ある決断を下した。
“・・・くろ、まだ早いからもう少し寝よう。ママさんもまだ寝てるだろうから。”
「にゃんにゃぉにゃんにゃ、にゃぁみゃんにゃにゃん」
「うん。わかった〜。」
くろは大きく頷いて再び布団へ潜り込んだ。