ふわり、カラダが浮いて、俺は目を開けた。
目の前に俺の顔・・・いや、俺の姿をしたくろの顔があった。
「おにいさん!あいたかったぁ!」
豹柄スーツ姿のくろの胸の中で抱き締められている。
川には流されてはいなかった。
ふぅ、と大きなため息をつく。
周りをキョロキョロと見渡せば、探し疲れたのか、俺を見つけた安堵からか、同じく豹柄スーツを着た4人はゼーゼーと息を切らせながら河原にしゃがみ込んでいた。
“そんなとこ座ったら濡れるぞ”
「にゃんにゃあぁぁん」
「おにいさんがねぇ、すわったらぬれるぞ、だって。」
「もうとっくに濡れとるわ!」
酒井が俺とくろに向かってツッコミを入れる。
それがおかしくて俺が笑う(鳴く)と、くろも笑って、4人も笑い始めた。
「いやぁ、見つかってホントよかった!俺たち、必死に探したんですから!」
「そうだよ、こいつが目を離したからこんなことになっちまって!」
「すいませんっ・・・!」
「ははっ、冗談だよ。・・・早速だけど、黒沢。お前に会わせたい人がいる。今から行くぞ。」
“会いたい、人・・・?”
「みゃにゃん」
車に揺られて向かったのは、見覚えあるマンションだった。
ある部屋の前へ行くと、村上がインターホンを押した。
「くろにゃん?!」
ドアを開け飛び出してきたのは、ももちゃんだった。
“ももちゃん!”
「にゃぁ」
「やった!くろにゃんだ!もどってきてくれたんだね!」
すごくうれしそうな笑顔を浮かべるももちゃんに、胸がチクリと痛んだ。
「くろにゃんはね、ももちゃんにお別れをしにきたんだよ。」
村上がそう説明すると、ももちゃんは途端に泣き始めた。
「やだぁ!いっしょにいく!」
俺を抱くくろの足元に縋って離れようとしない。
俺はくろの腕の中でカラダを伸ばし、くろの耳元で俺の気持ちを伝えた。
くろは「うん」と頷いて、ももちゃんに語りかけた。
「ももちゃん、ごはんくれてありがとう。
ももちゃんなら、すぐにともだちできるよ、ぼくともすぐになかよくなれたんだから、だいじょうぶだよ。
はなればなれになっても、ももちゃんとはずっとともだちだよ。またあいにいくからね。
・・・だって。」
くろを介して伝えられた言葉に、ももちゃんは目を見開いて驚いた表情を見せたが、理解したのか笑顔を浮かべて「うんっ!」と言った。
俺はくろの腕から抜け出して、ももちゃんに駆け寄った。
“・・・元気でね。”
「にゃぁ」
「げんきでね、だって。」
「ん、ばいばい。」
ももちゃんと握手し、ほっぺたに濡れた涙を拭ってやった。
「お兄さんたちも、ももちゃんのお友達になりたいな。・・・いいかな?」
安岡がそう言ってももちゃんと視線を合わせるように身を屈めた。
「うんっ!おともだち〜!」
ももちゃんが安岡と握手をすると、他の連中も「俺も」「俺も」と言って握手し、“おともだち”になった。
くろも「ぼくも〜!」と言って、見よう見まねで握手している。
「今度ももちゃんの住む街に行く時お手紙出すから、お兄さんたちの歌、聞きに来てくれるかな?」
北山のお願いに、ももちゃんはまた「うんっ!」と元気に返事した。
「じゃ、ももちゃん、元気でね!」
「バイバイ!」
「ばいばぁい!」
「くろにゃん、おにいさん、ばいば〜い!」
ももちゃんは俺たちがエレベーターに乗るまで、ドアの前でずっと手を振り続けていた。
また会おうな、ももちゃん・・・