16.Krise(クリーゼ)
≪黒沢視点≫
段ボールの中で何十回・何百回と飛び上がって、蓋を開けようと試みたが、蓋が開きそうな様子はなかった。
これじゃダメだと作戦を変え、箱の壁に向かって突進し、箱をひっくり返そうともした。
しかし、それでも段ボールはビクともしなかった。
ああ、カラダが痛い・・・
明日、他の方法をゆっくり考えよう・・・
疲労困憊してしまった俺は、箱の底でうずくまり、眠ってしまった。
小さな雨音を感じ、目を開ける。
天井のわずかに開く隙間から空を見上げる。
とっくに朝は来ているようだが、空は分厚い雨雲で覆われていて、明るさはない。
小さな小さな雨粒が、時々カラダにかかる。
寒いな・・・
雨がかからないように箱の隅で丸まり、雨が止むのを待った。
が、雨は止むどころか激しくなる一方だった。
箱の中にまで雨が流れ込んでくる。
もう隅だの真ん中だの関係ない。
濡れたカラダをブルブルッと震わせて雫を飛ばすぐらいじゃ間に合わない。
なんとか脱出しなきゃ・・・
何度も声を上げたが、この大雨の中、川沿いを散歩する人なんてなく、無駄な努力に終わった。
あ、これもしかしたら・・・このまま雨に降られたら、箱の強度が弱まるかも。
子猫の爪と力でも、破って外に出れるかもしれない。
しかし降り注ぐ冷たい雨は、俺のカラダから体温と体力をすでに奪い去っていた。
そのうえ、腹も減ってきた。
俺はこれ以上体温を奪われないように、箱の隅で小さく丸まった。
寒い・・・カラダの震えが止まらない。
何だよ、もう・・・何でこんなことになってんだよ・・・
俺はただ、路地裏のカレーが食いたかっただけなのに・・・
俺、猫のままどうにかなっちゃうのかな・・・
俺がいなくなって、俺の代わりにくろが俺のパート歌ってたりして・・・はは・・・笑えないってば・・・