「ここ〜。ここがもものいえだよ〜。」
ももちゃんが右の窓から見えるマンションを指差す。
車はマンションの前でゆっくり停止した。
安岡がももちゃんに話しかける。
「お兄さんたちがくろにゃん探してきてあげるから、おうちで待っててくれるかな?」
「うんっ!」
「じゃあお兄さんたちが家まで連れてってあげるね。」
ドアを開け、順番に降りていく。
「くろも行くよ。」
北山が呼ぶと、くろ君は「はぁ〜い。」と返事し、ピョンと地面に降り立った。
マンションに入り、ももちゃんの住む部屋のドアの前、リーダーはくろ君に釘を差す。
「くろ、しゃべるなよ。」
「はぁ〜い。」
インターホンを押すと、慌てた様子でももちゃんのパパとママらしき人物が飛び出してきた。
「ももっ!警察に捜索願を出すとこだったん・・・あ・・・ご、ゴズペラーズさん?!」
驚くのは無理もない。
ももちゃんの後ろに、豹柄スーツのゴスペラーズが立っているのだから。
「ライブをしてた区営グラウンドで、くろにゃんを探しているももちゃんを見つけまして・・・」
「あっ、すいません!わざわざ送っていただいて・・・ダメじゃないか、もも!夜遅くにひとりで出歩いちゃ!」
「うぇ〜ん・・・だってぇ〜・・・」
パパに怒られて泣き出したももちゃんを庇うため、俺は一歩前に歩み出た。
「あの、お父さん・・・」
「何でしょう?」
「ももちゃんのこと、怒らないであげてください。ももちゃん、引っ越しで友達がいなくなるのが嫌みたいです。
だから、猫を飼いたかったんだと。・・・ももちゃんを許してあげてください。」
「は・・・はい・・・」
「それと・・・引っ越すまでにもう一度、ももちゃんとくろにゃんを会わせてあげてください。」
「!・・・あの猫は私が河川敷へ捨ててしまったんですが・・・」
「あの猫は俺たちにとって大事な・・・仲間、なんです・・・今から探してきます。
見つかったらまた伺いますので、ももちゃんにちゃんとサヨナラを言わせてあげてください。」
「・・・わかりました・・・すいません・・・」
「では、失礼します。」
4人揃って、ももちゃんのパパとママに向かって頭を下げた。
ぼ〜っとしているくろ君に気づいた安岡が、慌てて後頭部を押さえつけてお辞儀をさせた。
「じゃ、次は川だな。急ぐぞ!」
雨はさらに激しさを増している。
皆の顔にも焦りの色が見える。
頼む、無事でいてくれ・・・!