15.Suche(ズーヘ)
「くそっ・・・何で来ねぇんだよあいつは・・・!」
リーダーが、雨に濡れたカラダを拭くために渡されたタオルを地面に叩きつけた。
白いタオルは雨と土を吸い、茶色く変色していく。
もう何も言えない。
もうどうしていいか わからない。
帰っていくお客さんの声と黒猫の鳴き声を舞台裏で聞きながら、ただ唇を噛み締めた。
どれくらいその場に立ち尽くしていただろう。
客が去ったはずのグラウンドから、女の子の声が聞こえてきた。
「・・・女の子の声がする・・・」
「何?酒井さんどうし・・・」
「しっ・・・」
人差し指を自分の口元に持っていき、安岡の言葉を遮った。
『・・・くろにゃ〜ん!・・・くろにゃ〜ん!』
「ホントだ!」
安岡がそう言うのと同時に、皆一斉に舞台へ向かった。
見ると、グラウンドの真ん中で小さな女の子が傘も差さずに泣き叫んでいる。
俺たちは、舞台から飛び降り、女の子に駆け寄った。
「お嬢ちゃん、こんな時間にひとりで何しているの?」
北山が問いかけると、女の子は嗚咽を漏らしながら北山の足元に抱きついてきた。
「・・・もものくろにゃん・・・ぱぱにすてられちゃったの・・・ここにきたらくろにゃんいるかもしれないっておもったのにぃ〜・・・」
俺は女の子の前にしゃがみ込み、視線の高さを合わせた。
「ねぇ、ももちゃん、かな?」
「えっく・・・なぁに?」
「その黒猫・・・くろにゃん、とはいつ、どこで、会ったのかな?」
「んとね、きのうね、『なかよしこうえん』のねぇ、ちかくのこんびにやさん・・・」
「『なかよし公園』って・・・カレー屋の隣のバーの主人にもらった地図に描いてあった!」
「雄二、それホント?!」
自信が確信に変わる、というのはこういう感覚なのか。
「なぁ、ももちゃん。雨に濡れると風邪引いちゃうから、雨の濡れないところで、もう少しお話聞かせてくれるかい?
またくろにゃんに会えるかもしれない。」
「酒井さぁん、なんか今の言い方、誘拐犯みたいなんだけど・・・」
「なっ・・・?!」
「え、ほんとぉ〜!?あえる?くろにゃんにあえる??」
安岡のツッコミに焦る俺に、ももちゃんとやらは涙で光る瞳を見開いて尋ねてくる。
「あ・・・ああ、会えるよ。」
「やったぁ!くろにゃんにあえる!」
「とりあえず車に戻ろうぜ。くろも待ってる。」
「うん。」「そうだね。」「行こう。」