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「よしゃ、じゃ、行くぜ!」
リーダーの掛け声を合図に、4人で舞台へ向かう。

黄色い声援、どよめきの声が一斉に起こった。

「こんばんわ、ゴスペラーズです。せっかくのライブなんですが、黒沢は今日は体調不良でお休みです。
今日は4人で歌わせていただきます。黒沢のファンのみなさん、すいません。」

客席に対して全員で頭を下げると、どこからともなく拍手が起こった。

猫を刺激しないように大き過ぎない音量でアカペラを歌う。
黒ポンの歌うパートは、1曲ずつ交代して担当する。

4人で歌う、5人の歌。
照明と雨粒で光る傘とレインコート。
そこここから聞こえる黒猫の鳴き声。

“俺がいないのに歌うなよぉ〜!”とか言いながら(鳴きながら)、黒ポンが舞台に飛んで上がってくるんじゃないか。
そう願って、声を奏でていく。

しかし、それらしき猫は、いまだ現れない。

「それでは最後の曲です。」

リーダーは客席に向かってこう言った後、マイクオフで俺に声をかけた。

「・・・酒井。最後の歌だ。頼む。」
「・・・はい・・・」

俺は大きく息を吸い込み、歌い始めた。

「♪ABCDEFGHIJKLMNOP〜」

俺も、他のメンバーも、これほどまでに思い詰めた表情で歌ってるなんて、なかったように思う。

俺たちの願いはひとつ。

この歌声・・・黒ポンに届け・・・!

「ABCDEFG♪」

それなのに・・・歌い終わっても、この歌に反応する黒猫は現れなかった。

「・・・今日はこんな悪天候の中お越しいただいてありがとうございました・・・気をつけてお帰りください。」

約1時間のステージが終了した。
拍手がなり響くなか、俺たちは退場した。


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