会場に到着した俺たちは、早速くろ君とお揃いの豹柄スーツに着替え、舞台袖から客席を覗いた。
「すごい・・・」
客席には空いたスペースが見当たらないほどのたくさんの人だかり。
そして。
「みゃ〜」「にゃ〜」「にゃお〜ぅ」・・・
たくさんの黒猫。
「よっし。じゃあ始めるぞ。最終確認だ。・・・くろ、お前はどうするんだっけ?」
「ぼくはぁ、すわって〜、おふとんかぶってねるの。」
「そうだ。それ以外は絶対動いちゃダメだぞ。しゃべるのもなしだ。返事は?」
「は〜い。」
「よし。いい子だ。で、お前ら、曲の段取りはわかってるだろうな?」
「もちろん。」「バッチリだよ。」「まかせといてください。」
「おっし・・・じゃ、始めるぞ。」
リーダーが1回指を鳴らしたのを合図に、くろ君がしゃがみ込んだ。
「・・・黒ポン!?」
俺はわざとらしくくろ君に駆け寄り、くろ君の額に手を当てた。
「すごい熱だ・・・」
リーダーもくろ君に歩み寄り、同じく額に手を乗せた。
「これは本番は無理だな・・・すいませ〜ん、氷とビニール袋ありませんか〜?」
リーダーがそうスタッフに呼びかけると、スタッフはそのふたつをすぐに用意してくれた。
「クーラーボックスの、飲み物を冷やす用の氷しかありませんが・・・」
「ああ、それで構わない。酒井、黒沢を車で寝かせてやれ。」
「はい。・・・さ、黒ポン立ちましょう。」
俺はくろ君を支え、片手にビニール袋に入った氷を持ち、車に向かった。
ワゴンの後部座席にくろ君を寝かせ、毛布をかけた。
「じゃ、くろ君。ここで寝ててくれるかな?」
「うん。」
「動いちゃダメだよ。じっとしてたら、ママさんにちゃんと会わせてあげるから。」
「うんっ!」
「じゃ、また後でな。」
ドアを閉め、再び舞台裏へ向かう。
「すいません、黒沢さん、『少し寝かせてほしい』って言ってたんで、しばらくゆっくり休ませてあげてください。
ライブが終わったら、俺たちがまた様子見ますんで。」
「はい。」
心配するスタッフたちに釘を差すようにお願いをして、メンバーの元へ戻った。