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食事が終わって一息ついた頃、安岡がこんなことを言い出した。

「ねぇ、くろのお風呂はどうするの?」

一同沈黙。

「あ、あれだ、言いだしっぺのお前が入れてやれ。」
「何それ!・・・そうだ、酒井さんが入れてあげればいいじゃない?猫詳しいし。」
「勘弁してくれ!俺、さっき着替えさせてやったじゃないか。というワケで北山、頼む。」
「ちょっと何で俺・・・てっちゃん、リーダーなんだからちゃんとしてあげなよ。」
「そんな時だけリーダーを使うなよ!・・・って、あ!!」
「どうしたの?てつ。」
「銭湯行くぞ!みんなで。連帯責任だ!」

そんなリーダーの力技で、4人とくろ君で銭湯に行くことになってしまった。
俺らの頭の中では「4人+1」だが、風呂屋の番台のオッチャンや男性客から見れば、“ただの『ゴスペラーズ』”だ・・・。
男湯の扉を開けた途端、場内騒然だ。

「おぁ、ゴスペラーズだ!!」
そこここで巻き起こる声に、くろ君以外の4人は引きつり笑いを浮かべるのがやっとだ。

皆でくろ君の服を脱がしていると、周りの視線がさらに深く突き刺さる。

浴場の中に入った後も、4人でくろ君の頭や身体や顔を洗ったり。
不思議な光景に周りはすっかり静まり返っている。
時々女風呂から子供の声が聞こえてくるぐらいだ。

「ねぇ・・・この作戦、失敗じゃない?」

北山が言ったのも無理はない。
これじゃまるで王様ゲームか、あるいは4人が賭けに負けたって感じだ。
罰ゲーム以外の何物でもない。

「・・・おぅ、みんな、浸かるぞ。くろも来い。」
「は〜い。」

項垂れながら湯船に向かう俺たちの後ろを、くろがペタペタついて来て見よう見まねで湯船に入った。

「あったかいねぇ〜。きもちいいねぇ〜。」
「そうだろう。君たち猫が何で風呂を嫌がるのか、俺にはわからん。」
「けどもうだいじょうぶ。おふろ、すきだよ〜。」
「そうかそうか。」
「うん。」
「・・・なぁ、くろ君。」
「なぁに?」
「ごめんな。ママさんに会いたいのに、待たせちゃって。」
「ううん。おにいさんも、あいたいんでしょ?」
「ん?」
「みちでねてたおにいさんに、あいたいんでしょ?だから、ぼくももうすこしがんばる。」
「!・・・ああ・・・そう、だな・・・」

やばい。くろ君の言葉に泣きそうだ。

ゴスペラーズは5人でひとつ。
その中のひとりが猫だとか、いなくなるだとか、そんなことはあってはいけないのだ。

今回の一連の騒動で、それを強く感じた。
それは俺だけじゃなくて、他のメンバーだって思ってる。
だからこうやってみんな躍起になっている。

恐らく、黒ポンも今頃同じことを思っていて、きっとどこかで俺たちの元へ帰って来ようと頑張っているはずだ。

大丈夫。
俺たちだから、きっと大丈夫。
そんな自信がいつの間にか湧いてきていた。

 

銭湯を出た俺たちは、ホテルの大部屋を押さえ全員でそこに泊まることにした。

誰かがひとりでくろ君を面倒見るとなると、ひとりだけ多くの体力と精神力を使ってしまうことになる。
明日は朝から予定がたくさん詰まっているので、それは極力避けたい。

大変なことも4人で分ければ軽くなる。
“楽しいことも大変なことも、メンバー全員で分け合う”
銭湯へ行った時と同じ論理だ。

俺たちは部屋に着いて早々、各自ベッドに潜り込み、明日に備えた。


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