14.Singen(ズィンゲン)
一番最初に見つかったのは会場だった。
あのコンビニから1kmほど離れたところにある、草野球が2面とれるほどのちっぽけなグラウンド。
開催は明日の夜。
照明つきのグラウンドのため、夜でも問題はないだろう。
ホントは何としても今晩中に開催したかったのだが、スケジュールが開いていた会場はコンビニからかなり外れていた。
皆で話し合った結果、遠くの会場より明日の開催を選んだ方が黒ポンが来る可能性が高いだろうという結論に達したのだった。
会館が押さえられなかったため、今度は簡易の舞台装置なんかも必要になった。
リーダーがそれをまた新たに発注して機材関係は完了した。
残るは、人員。
急遽決まったイベントだけに人手もない。
事務所関係に知り合い関係・・・4人でいろんな人に電話やメールをし、手伝ってくれる人間を集めた。
まさに身内総動員だ。
そしてちょうどいいタイミングで安岡のメシも完成。
気がつけば夜の8時だった。
「みんなおつかれ。おっし、くろ。メシができたぞ。」
「ん〜・・・」
リーダーが声をかけると、くろ君は目を覚まし、手の甲で顔をこすった。
クンクン、クンクンと鼻を鳴らしながら、料理が並んだテーブルに向かっていく。
「うわぁ、おさかなだ〜!」
「どうぞ、くろ。塩は少なめにしてあるから。さ、食べて食べて☆」
安岡に用意してもらった椅子に腰かけたくろ君は・・・顔を皿に近づけた・・・
「うわぁ、くろ君っ・・・」
「あ。にんげんって、て、つかえるんだった。ふぁんもそーせーじも、てでたべたもんねぇ。」
俺が止めるより先に、くろ君はひとり納得し、手掴みでごはんを食べ始めた。
なるほど、今までカレーパンもソーセージも手渡しだったから、そのまま手で食えたんだな。
皿に盛った状態はこれが初めてだったってワケか。
こうやっていろいろ学んでくろ君は人間に近づいていくのだな・・・ってあの人、猫に近づいてないだろうな?!大丈夫か!?
何だかとっても不安になってきたのだが・・・
「おにいさんこれおいしいねぇ。すっごくおいしいねぇ〜。」
「そう?よかった!喜んでもらえて〜。」
嗚呼、せっかく綺麗に盛りつけてくれたのに手で食うからグチャグチャだな・・・
まぁいいか。あの人もカレー、手で食うし。
手も口の周りも米粒だらけ。そして笑顔だ。
どんなワンパク・ハラペコキャラなんだそれは。
裸の大将だってもうちょっと上品に食べるぞ?
「・・・雄二どうしたの?さっきから全然食べてないけど。」
「あっ、食べる食べる!食べますとも、えぇ。」
ついつい、くろ君の動きを逐一見てしまう。
やっぱり中身は猫なのだなぁ、と・・・ってまた食う手が止まってしまった。いかんいかん。
視線を皿に戻して、食べることに専念することにした。