北山の意見にグゥの音も出なくなった俺は、椅子に座ったままのくろ君に目をやった。
どことなく寂しそうで・・・垂れ下った耳と尻尾が見えそうなほどだ。
くろ君はママさんにどうしても会いたかった。
だから人間になりたいと願った。
なのに今は黒ポン優先で、ママさんのことを先延ばしにされている。
今すぐ連れて行ってあげたいけど・・・黒ポンとくろ君の、これ以上のすれ違いはまずい。
早くふたり・・・いや、ひとりと1匹を引き合わせて、元に戻る方法を考えなければ。
で、猫に戻ったくろ君を、バレないようにこっそり病院に連れていってやらんとな。
「くろ君、まず着替えようか。」
「きが、えようか?」
「そう、“着替え”。君たち猫は毛繕いできるから着替えないけどね・・・って何に着替えさせよう・・・」
砂塗れになったくろ君・・・いや、黒ポンの服をクリーニングしなければならない。
んもぅ〜、あの人普段からいい服着すぎなんだよ。
Tシャツとかなら洗濯機なりコインランドリーなりでガーッと回して乾かせば済むんだが。
俺はひとまず部屋にくろ君を残し、事務所のスタッフに声をかけた。
「あの〜、さ、黒ポンの服、ない?」
「え、黒沢さんの、服、ですか?」
「そうそう。あればなんだっていいから。」
「はぁ・・・じゃあ探してみます・・・」
スタッフは首を傾げながら、服を探しに行ってくれた。
待つこと約1分。
「すいません、今はこれしか・・・」
「ぶっ・・・!」
出てきたのは、豹柄のスーツ・・・
あの人のセンスが、思わぬところでネックになる。
・・・ま、いっか。猫に着せるワケだし、外見は黒ぽんだし、俺が着るワケじゃないし。
「は〜い、くろ君。これに着替えてください。」
「ん〜?」
「はい、脱いで脱いで。」
ジャケット脱がして〜、シャツのボタンを〜、とテキパキと脱がしていたワケだが・・・妙に恥ずかしい。
昨日の夜、猫の黒ポンと風呂入った時は「何照れてんだアンポンタン!」などと思ったのに。
当のくろ君は、当たり前だが特に気にする様子もなく、ただ脱がされてるだけだが。
「これは猫!猫だ!照れるな俺!」
「どうしたの〜?」
「くろ君は気にしなくていい。・・・ほら、ここに手を入れなさい。」
白シャツを着せて、豹柄スーツを着せて・・・ハイ、完成!
こいつ黒猫なのに豹柄着てます。
ぷっ・・・すごくシュールだな・・・。
「おねむ〜・・・」
「おぁっ、今着替えたとこ!そんなところで横になりなさんな!」
床に寝転ぼうとするくろ君を何とか寸止めして、事務所のソファに寝させた。
「んん〜・・・ふぁあ〜ぁ」
「ゆっくり寝なさい。あとで安岡がおいしいもん作ってくれるから。」
大あくびするくろ君を見守りながら、手持無沙汰な俺は作詩をすることにした。