それからしばらくしてパパも帰ってきた。
ママが俺のことをパパに説明しているのが聞こえてきた。
ももちゃんは部屋の隅で俺を抱いて小さく丸まったままだ。
「もも?」
パパが声をかけるが、ももちゃんは返事をしない。
・・・非常に気まずい雰囲気だ・・・
「ももちゃん、そのままでいいから聞きなさい。ここのマンションはペット飼っちゃダメなんだよ。
それに・・・引っ越し先もペット飼えないんだ。・・・わかるな?」
え・・・ももちゃん、引っ越すのか・・・
せめてもの救いは、引っ越し先がペット不可で、連れて行かれるのを免れたってことだけど。
「パパがその猫捨ててくるから、貸しなさい。」
「やだぁ!」
ももちゃん、また泣き出してしまった。
「わがまま言っちゃダメじゃないか。」
「やだやだぁ!くろにゃんいなくなったら、もものおともだちいなくなっちゃうもん!」
そうか。友達がひとりもいない引っ越し先で、ひとりぼっちになるのがイヤだったのか。
だからももちゃんは俺を飼いたかったのか。
「もも!」
パパは、ももちゃんを無理矢理こちらを向かせて、俺をももちゃんから取り上げた。
「やだぁ!やだぁ〜!!」
ももちゃんはすっかり号泣していて、何を言ってるのかすらわからなくなってきている。
パパは、引っ越し用に組み立てていた段ボールの空箱に俺を入れた。
そして俺が逃げ出さないように、蓋部分に簡単にガムテープを貼った。
僅かに開いた隙間から様子を窺う。
パパは俺の入った箱を運んで外に出ると、車の助手席に置いた。
パパが車を発進させて、約十分ほど走っただろうか、到着したのはどこかの大きな川の河原だった。
パパは草むらを分け入り、箱をそっと降ろした。
「ごめんな・・・ホントは俺も飼ってやりたいんだけど、ウチでは飼ってやれないんだよ・・・」
パパもちょっと泣き声になっている。
パパが悪いワケじゃないってわかってるから、気にしなくていいよ。
それにこれでやっとみんなの元へ帰れる。
ももちゃんともう会えないっていうのは、ちょっと寂しいけどね。
・・・なんて暢気なことを考えている場合じゃなかった。
パパも、ももちゃんの泣きっぷりに相当動揺していたんだろう。
パパは・・・蓋を留めたガムテープを剥がさずに去って行ってしまったのだった・・・
何度手を上に伸ばして飛んでも蓋が少し浮くだけで、ガムテープは意外としっかりと貼りついていて開く気配がない。
子猫のパワーではビクともしないよ・・・
“ぱ、パパ!剥がしてよ、コレ!!”
「にゃぁ!にゃにゃぁ〜っ!」