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「そういえば、くろ君。」
「なぁに?」
「人間の姿になってから何も食べてない?」
「うん・・・」
「ホントに?」
「・・・うん・・・」
「ホントにホント?」
「・・・ごめんなさい」
「・・・え?!何食べちゃったの?!」
「ふぁん、たべた。」
「は?」
「ふぁん、たべたよ。」
「くろ君こどもなのに早熟だなぁ・・・ってオイ〜っ!食っちゃったのか!ファン食っちゃったのかぁ〜!!?」
「うん。おいしかったよ。」
「おいしいって!・・・って、あれ?」

興奮気味だった酒井が急にクールダウンした。

「ファンって、どんな?」

くろは「んと〜」と言って視線を上に上げ、ちょっと考えた後、言葉を続けた。

「こんなまぁるいねぇ、ちゃいろくてねぇ、ふあっふわのねぇ、なかにねぇ、ぱぱさんがいつもつくってたのとおなじにおいのするのがはいってたの。」
「・・・カレーパン?」
「ん〜。わかんない。けどおいしかったぁ。」
「女の人?」
「うん。きれいなおねえさんだったよ。
『あくしゅしてください』ってねぇ、いわれてねぇ、てをにぎにぎされてたらねぇ、おなかがぐぅぐぅなってねぇ、『おなかぺこぺこでぐぅぐぅいっちゃうなぁ』っていったらねぇ、おねえさんが『これどうぞ』って、はこからいっこくれたんだよ。『ふぁんです』って。
ぼくねぇ、それたべてねぇ、『おいしいねぇ。これすっごくおいしいねぇ。』っていったんだ〜。」
「それは“敵”も相当天然とみた。」
「てんねんってなにぃ?」
「簡単に言うと今のくろ君みたいなもんだな・・・」
「はらぺこってことかなぁ。」
「違うけど・・・ゴミとかネズミじゃないだけまぁいいか。」

よくないっ!
街でファンからカレーパンもらって食べて『おいしいねぇ』って俺が言ってることになるんだぞ、俺が!この俺がだぞ!

「じゃ、くろ君、食べ物買いに行こうか。」
「うん。おなかすいたよぉ〜。」
くろは八の字眉で腹をさすった。


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