自転車を止めた場所から数百メートル向こうにあるコンビニへと歩いてゆく。
「ん?」
酒井が居酒屋のシャッターの前でピタッと立ち止まった。
前を向いたままの状態で、1歩2歩と後ろにバックする。
そしてそぉ〜っと路地の中を覗いた。
「あ゛ぁ〜〜っっ!」
“ぬぁっ?!”
「にゃあ」
路地に置かれた居酒屋のゴミ箱の蓋を開け、まさに今頭を突っ込まん勢いの・・・俺。
いや・・・くろ・・・・・・
「何やっとるんじゃ、くろ君〜!」
酒井が慌てて路地に飛び込み、くろ君の手から蓋を取り上げ、ゴミ箱に蓋をした。
「おなかすいたよぅ・・・」
空腹に耐えられなくなったのか、それとも酒井の怒鳴り声に驚いたのか、くろは「ふぇ〜ん」と言いながら泣き始めた。
「うわっ、くろ君?!」
慌てふためく酒井と俺。
「お〜、よしよし!恐かったのか、すまんすまん!」
酒井はビービー泣いてるくろの頭を撫でている。
いや待て酒井・・・中身はくろでも外身は俺だ!
大の大人ふたりでその画はないだろ!
くろもさぁ、いくら中身が子猫でも外身俺なんだから、涙はまだしも鼻水ダラダラ流しながら泣くのやめてくんない・・・?
「びぇ〜〜、おなかすいたよぅ〜、びぇ〜ん」
「ああわかった!わかったから!そこのコンビニで何か買ってあげるからもう泣くな!よしよし!」
「ふぇっ・・・ほんとぉ?」
「ま、あれだ、とりあえずハナをかめ。」
かぷっ。
くろが酒井の鼻に噛み付いた。
「痛ぁ〜〜っ!何すんじゃい!」
また酒井が目くじら立てて怒るもんだから、泣き止みそうだったくろ君がまたビービー泣き出した。
「びぇ〜ん、おにいさんかめっていったのにぃ〜」
「あ〜、すまんすまん!また恐かったのか。よしよし、いい子だから泣くな。」
酒井はもう一度頭を撫でた後、ポケットを探りティッシュを取り出すと、くろの鼻水を拭ってやる。
「ハナをかむっていうのは、鼻水を出しちゃいなさいっていう意味だ。」
「ふぇ〜ん。どうやってだすのぉ〜?」
「ち〜ん、って言ってもわかんないか・・・
くろ君、俺がこの紙で押さえといてあげるから、鼻から勢いよく息を出すようにしてごらん。」
酒井がくろの鼻にティッシュを被せた。
「はい、どうぞ。」
ふ〜んっ!
「これでいいのぉ?」
「おぉ!上手だな、くろ君!なかなか筋がいいよ!」
何だそりゃ!!
何この一連の動き!
俺の格好で変なことばかりするな!させるな!
酒井は残ったティッシュで再びくろ君の涙やらハナやら拭いてやっていた。