「じゃ、入りましょうか。」
“早く行こう!”
「にゃんにゃぁ」
酒井が俺を抱き上げ、足早に病院の正面玄関に向かった。
自動ドア目前まで迫ってきた時。
「こら!そこの君、待ちなさい!」
病院のガードマンに呼び止められた。
「病院に動物連れて入っちゃダメじゃないか!?動物病院じゃあるまいし!」
これかぁ。くろが言ってた『ぽいっ』は。
「あっ・・・す、すいません・・・」
周りにいた患者や見舞い客や病院関係者やタクシー運転手が、怪訝そうな目で俺と酒井を見ている。
俺は猫の姿だからいいけど、いや、よくないけど、酒井なんて思いっきり芸能人の姿のまま叱られちゃって気の毒だ・・・。
俺たちは仕方なく一旦正面玄関から離れた。
「くろ君が言ってたこと、すっかり忘れてたよ。う〜む・・・どうやって入ろう・・・」
一難去ってまた一難、酒井はまたまた悩んでしまっている。
「真冬だったらコートの下にっていう方法もあるんだけどなぁ・・・
仕方ない、コンビニで紙袋買いますから、そん中入ってください。」
“え〜〜〜!やだ!”
「にゃぁ〜にゃ」
俺は激しく首を横に振った。
「つべこべ言ってる暇はないですよ!くろ君がママさんの病室であんな感じでトーク展開してみなさいよ。
『おかしな奴が来た』って、今度は黒猫じゃなくて“黒沢薫”がつまみ出されるんだぞ?!」
“そ、それは困る!”
「にゃにゃぉ」
再び首を激しく横に振る。
「じゃ、買いに行きますよ、紙袋。」
“はぁ〜ぃ・・・”
「にゃ・・・」