ビルとビルの間を1個分奥へ入っていくと、ようやく少し道が開けてきた。
「すげぇ・・・こりゃ迷路だな。」
昨日ダンジョンを脱出した時は辺りはすでに暗くなっていたから、今目の前に広がる光景は別物のように見える。
俺は昨日聞いたモーター音の記憶を必死に手繰り寄せていた。
“こっちかな”
「にゃぁぉ」
手でウィンカーを出し、それを繰り返しながら進んで行く。
「あ!あれ!」
酒井が路地の先を指差し、歩調を早める。
足を止め、酒井が拾い上げたのは俺の携帯。
「とりあえず俺持っときますね。」
“あぁ、頼む。”
「にゃにゃ」
酒井はポケットに俺の携帯をねじ込んだ。
「うわぁ、こりゃ迷うわ・・・ここは樹海か?」
酒井はきょろきょろと辺りを見回した。
「そうだ、今猫になってるんだったら鼻が利くんじゃないですか?カレーの匂いしませんかね?」
くんくんと鼻を鳴らしてみる。
・・・あ、かすかにあるぞカレーの匂い!
しかも間違いなく、あの日食ったカレーだ!
俺は酒井の腕から身を乗り出して、降りたいとアピールした。
「はい、どうぞ〜。」
酒井が俺を地面にそっと置いた。
くんくんと匂いがする方へ進んでいく。
酒井が俺の後ろをついて来る。
角を曲がるたび、徐々に匂いが強くなってきた。
そうやって何度か角を曲がって行くと、ようやく見覚えのある路地が見えた。