たしかこの辺りだったよなぁ〜・・・。
スタジオを出て早30分が経とうとするが、いっこうにあの日見つけた路地が見つからない。
迷路のように入り組んだ路地の真ん中で茫然と立ち尽くす。
「ここ・・・どこだ・・・?」
しまった・・・10年前と同じ過ちを繰り返している。
前回はたまたま見つけたカレー屋に入り、美味いカレーを食い、店のオヤジに脱出方法を教えてもらった。
しかし、今は脱出方法を入手できるような店もなければ、人の気配もない。
天を仰ぐ。
高いビルに囲まれて、いつもより遥か遠くに青い空がわずかに見える。
足元を見る。
真っ昼間なのに薄暗いうえに、意味もなく存在する段差や瓦礫や砂利がさらに歩きにくさを増長する。
耳を澄ます。
人混みからさほど離れてないにもかかわらず喧騒から遮断され、室外機だか換気扇だかのモーター音だけが絶え間なく聞こえてくる。
脱出の手がかりなし。
それにしてもハラ減ったなぁ・・・。
あの日食ったカレー、早く食べたいなぁ・・・。
早くここから出たいなぁ・・・。
あの時無理矢理にでも酒井誘っときゃよかったなぁ・・・。
俺ダンジョン苦手だわ、やっぱり・・・。
あっ、そうだ!携帯!
心に余裕がなくて携帯電話で助けを呼ぶということすら忘れていた。
慌ててジャケットのポケットから携帯電話を取り出す。
誰にかけよう。
携帯の電話帳を検索しながら俺は前に歩き出した。
その時。
携帯の画面に気をとられ、足元の段差に気づかなかった。
「うわっ!?」
段差につまずき、大きくバランスを崩す。
ぐらりと揺れる視界。
俺のカラダはそのまま後ろへ倒れてしまった。
人生最悪の日だ・・・
打ち所が悪かったのか、意識が遠退く。
スローモーションのように、徐々に視野が暗く狭くなる。
俺には、意識の流れに逆らわず
静かに目を閉じることしかできなった。